秘密の地図を描こう

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 ドアを開ければ、ある意味懐かしい面々が立っているのがわかった。
「お前たち、どうしてここに?」
 アスランがこう問いかける。
「議長からうかがったんですよ。あなたがここにいると」
 微笑みながらニコルがそう言う。その表情に思わず半歩、後ろに下がってしまったのは条件反射だろうか。
「お前がこれからどうしたいか。それを確認して来いってさ」
 どこか同情を含んだまなざしをディアッカはアスランに向ける。
「誰が、だ?」
 ある種の期待ともにそう聞き返した。
「議長だ」
 だが、その期待はイザークの言葉であっさりと打ち消される。
「何故、デュランダル議長が?」
 自分はオーブの人間だが、とアスランは言外に告げた。
「今は帰れませんけどね」
 そういえば、そういう映画がありましたね……とニコルが笑いながら付け加える。旅行中に自国がなくなったせいで空港で生活する羽目になったと言うAD期の、と彼は続けた。
「……ニコル」
 お前な、とため息をつく。
「実際、そうなりつつありますでしょう? 議長のご厚意でまだ自由は認められていますけど」
 それも、オーブがまだ完全にプラントに敵対行動をとっていないからだ。今の状況ではいつ、そうなってもおかしくはないのではないか。
 彼の指摘を否定できない。
「とりあえず、ここでする話じゃないよな」
 苦笑とともにディアッカが口を開く。
「よかったらさ。中に入れてくれねぇか?」
 その方がゆっくりと話ができるだろう。そう彼は言う。
「そうだな」
 確かに、このままでは目立ちすぎる。そう判断をしてアスランは三人に入るように促した。
 そうすれば、彼らはなんの遠慮もせずに入ってくる。イザークに至っては、備え付けのソファーにさっさと腰を下ろしてくれた。
「淹れるなら珈琲にしてくれ」
 その上、こんなセリフまで口にしてくれる。
「イザーク、お前……」
「お前が淹れる紅茶は飲めるとは思えないからな」
 全く悪びれる様子を彼は見せない。
「……変わらないと言っていいのか、これも」
 ため息とともにそう言う。
「イザークですから」
「そうだな、あきらめろ」
 ニコルとディアッカがすぐにこう言ってきた。つまり、彼らもこれに関してはさじを投げていると言うことか。
「まぁ、何でしたら僕が淹れますから」
 ニコルが苦笑とともにそう口にする。
「そうさせてもらおう」
 イザークはうなずくと視線をアスランへと向けた。
「お前、ザフトに戻ってこい」
 そのまま、ストレートに彼は言う。
「イザーク!」
「ザフトには経験のあるものが少ない。それに、このままではここも戦場になる」
 アスランの声も気にすることなく彼は続けた。
「そうなれば、あいつも『戦場に出る』と言い出しかねないな」
 いや、そうでなくても彼はいずれ戦場に行くと言い出すだろう。その言葉を耳にした瞬間、アスランは目をすがめる。
「キラはどこにいる?」
 そのまま、彼は聞き返した。それが彼のことだとわからないはずがない。
「病院です。また体調を崩したので、強制入院させられました」
 それに言葉を返してきたのはニコルだ。
「あれこれと考え込むのは禁物だ、と知っているはずなのですが……オーブと大西洋連合の同盟の話を聞いたようで……」
 もっとも、と彼は続ける。
「まぁ、半分はパソコンから切り離すためですけどね」
 そう言いながら、彼はそれぞれの前に珈琲が入ったカップを置いていく。
「でも、いずれ止められなくなります。そのときには、僕も戦場に戻りますよ」
 キラのフォローをするために、と口にしながら、彼もまた腰を下ろす。
「ミゲルもレイも、同じ気持ちですし」
「命令さえもらえば、俺たちも可能だしな」
 ニコルの言葉にディアッカもそう言ってうなずいてみせる。
「お前は、ただ見ているだけか?」
 それでいいのか、と問いかけてきたのはイザークだ。
「いいわけないだろう!」
 それでも、とアスランは呟くように付け加える。
「すぐに結論を出せない……しばらく、考えさせてくれ」
 この言葉に彼らは「仕方がないな」とうなずいて見せた。

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最遊釈厄伝