秘密の地図を描こう
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「お久しぶりですわね、キラ」
そう言って《ラクス》が微笑んでいる。しかし、その姿に違和感を感じるのはどうしてなのだろうか。
そう考えながら、改めて彼女の姿を確認する。
「……君は、誰?」
確かによく似ているけど、彼女は《ラクス・クライン》ではない。一瞬迷ったのは、虚を突かれたからではないか。そう考えながら問いかけた。
「いやですわ、キラ」
あくまでも目の前の相手は《ラクス》として振る舞っている。
「君はラクスじゃない。君とラクスでは身にまとっている空気が違うから」
よく似てはいるが、とキラは口にする。そのまま視線をギルバート達へと移動した。
「ギルさんの差し金ですか?」
こう問いかければ、名指しされた彼は困ったような表情を作る。
「おやおや。私かな?」
「普段の言動を考えれば当然だろう」
ラウに問いかけるも、あっさりと受け流されてしまった。それがショックだったのか、わざとらしく肩をすくめている。
「ともかく、そろそろラクス嬢のまねはやめてもいいのではないかな? キラには通じないとわかっただろう、ミーア君」
だが、すぐにいつもの表情を作るとこう言った。
「みたいです。ラクス様がおっしゃっていたとおりでした」
だませると思っていたんだけど、と彼女――ミーアはため息をつく。
「初めまして。あたし、ミーアです。ミーア・キャンベル」
にっこりと微笑む表情はラクスのものとは全く違う。だが、これが彼女の本当の表情なのだろう。
「そっちの方が魅力的だと思うけど……」
しかし、何故、彼女はラクスと同じ声と姿をしているのだろうか。
「そう言ってもらえて嬉しいです。でも、ラクス様と間違ってもらえるともっと嬉しい」
自分はラクスの影武者だから、と彼女は言った。
「ラクス様になりたくてがんばったんです」
それに、と彼女は続ける。
「今はラクス様の存在が必要でしょう?」
それはそうかもしれない。しかし、それならば本人が表舞台に戻ればいいのではないか。
「大丈夫。彼女のことはラクス嬢も承知されている」
ギルバートがそう口を挟んできた。
「ミーア君の存在を教えてくださったのはあの方だよ」
さらに彼はそう付け加える。
「……ラクスが?」
「そうだよ。あの方はすぐには動けない可能性があるからね」
だが、情勢は待ってくれないかもしれない。そのときのために、とラクスは言っていた。ギルバートはそう教えてくれる。
確かに、彼女ならそう考えるだろう。しかし、とキラが心の中で呟いたときだ。
「あ、そうだ!」
いきなりミーアが両手を合わせる。
「ラクス様にキラさんに渡して、と言われていたものがあったんでした」
忘れていた、と彼女は続けた。
「ラクスから?」
なんだろう、と聞き返す。
「これです!」
そう言いながら、彼女は自分の胸元から一通のカードを取り出す。
「……ありがとう」
ここでようやく、彼女に抱いていた違和感の正体がわかったような気がする。
「あの……おかしいと思ったことがあったら教えてください」
気をつけるから、とミーアが言ってくる。
「うん、わかった」
ラクスが認めているならばいいのか。そう思いながらうなずく。それでも、どこか釈然としない。
「と言うところで座りなさい」
ラウが苦笑とともに言う。
「はい」
後でラクスにメールを出さないと、と思いながらうなずいて見せた。