秘密の地図を描こう
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「そんなにすねないでくれないかな?」
笑いながらラウがキラにそう声をかけている。
「……知りません」
しかし、キラはこう言って視線を向けようとはしない。それは、ものすごく子供っぽい仕草だ。だが、キラらしいともいえる。
しかし、だ。
もう一人もそうだとはいえない。
「……ディアッカ……」
「何を言いたいかわかっているから、黙ってろな」
イザーク、と彼は即座に言い返してきた。
「あれが視界の暴力だって認識しているのは、俺たちだけらしいから」
他のメンバーはすでに達観しているか、あの頃の彼を知らない。だから、ほほえましいと思っているらしい……と彼は言う。
「かまわれている本人もそうだしな」
残りの二人はカウントしない方がいいだろう。彼はさらにそう付け加える。
「そうか……」
そうだろうな、と思わず呟いてしまう。
「だけど、よく、あいつらに気づかれなかったな」
そんなイザークの耳に、ディアッカのこんなつぶやきが届いた。
「ディアッカ?」
何を言っている? と聞き返す。
「アスランとカガリもミネルバに乗ってたんだろう?」
イザークは知らないだろうが、と彼は苦笑を浮かべる。
「アスランのキラセンサーは並じゃなかったからな」
どこにようと見つけてきた、と彼は続けた。
「その上カガリだろう?」
マジで、よく見つからなかったものだ。そう言い切る。
「それに関しては、私とミゲルが公私混同をしたからだろうね」
苦笑とともにギルバートが口を挟んできた。
「彼らに二人の存在を知らせないよう、極力努力するように、とね」
キラはその直前までミネルバのシステムの調整をしていた関係で、艦内に知人ができていた。だから、さほど周知に苦労はしなかったようだが、と彼は続ける。
「整備陣は真っ先にキラの味方に付くそうですから」
アークエンジェルのクルーの話では、とディアッカが言う。
「議長」
今ならば質問をしても許されるだろうか。そう考えながらイザークは呼びかける。
「何かな?」
ギルバートが視線を向けてきた。
「あの方は……軍に戻られるのでしょうか」
だとするならば、心強い。しかし、反発もあるのではないか。そう考えながら疑問を口にした。
「いや……二人とも、まだ、表に出ない方がいいだろうね」
根回しも終わっていない、と彼は言い返してくる。
「もっとも、助言がしてもらう予定だよ」
こうなれば、こき使ったとしても誰も文句は言わないだろう。そう言ってギルバートは笑みを深めた。
「ただ、キラ君に関してはできれば戦争に関わらせたくないが……難しいだろうね」
ただ、と彼は続ける。
「その時期が少しでも遅くなってほしいと思っているよ」
それが自分達の役目だろう。彼の言葉にイザークもうなずく。
「問題は、それまでの間、あの視覚の暴力に耐えなければいけないことですか」
ディアッカがそう言ってため息をつく。
「ほほえましい光景ではないかな?」
しかし、ギルバートはそう言って微笑む。
この言葉にどう反応すればいいものか。本気で判断に悩む。
「ともかく、少しでも早く本国に帰還してくれるかな?」
地球軍の動きだけではなく、キラの体調も不安だ。その言葉に、イザークはかすかに眉根を寄せる。
「了解しました」
それは当然のことだ。だから、ためらうことなくうなずいてみせる。
「何。彼のことは心配いらないよ。そのためにラウが彼のそばにいるのだからね」
しかし、その言葉はどう反応すればいいのか。
やはり遊ばれているのかもしれない。そう思わずにいられないイザークだった。