秘密の地図を描こう
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「お前たち! 今、何を言った?」
言葉とともに金色の暴風が飛び込んでくる。
「……アスハ代表」
それに真っ先に反応を返したのはルナマリアだ。それで、その暴風の正体がわかる。
しかし、だ。
本当に彼女とキラが双子なのだろうか。
レイはついついそんなことを考えてしまう。確かによくよく見れば顔立ちは似ているかもしれない。だが、その印象は正反対だ。
「本当のことだろう?」
そんな彼の隣でシンがこう言い返している。
「あの日、後少しでも早く避難勧告が出ていたら、俺は家族を目の前で失わずにすんだ! あんたらは、あそこが戦場になると知っていたはずなのにな」
違うのか? と彼はカガリをにらみつけた。
「あんたは、あのとき、あそこがどれだけひどい状況だったのか、知らないくせに」
自分の家族がどうやって死んだかも、だ。シンはさらに言葉を重ねる。
「私だって!」
「それだけじゃない! あんたはさっさと逃げ出したからいいけど、残された人間がどんな立場におかれていたのか、知らないだろうが!」
セイランのせいで、自分達コーディネイターがどれだけ迫害されたかも、だ。だから、多くのコーディネイターがオーブを捨ててプラントに移住しているんだろうが、と言う言葉に、カガリはすぐには反論できないらしい。悔しげに唇をかんでいるのが見える。
「そこまでにしておいてくれないか?」
ため息とともにアスランが割り込んでくる。
「今は、それをどうこう言うときではないと思うが?」
彼はさらにそう続けた。
「そうやって逃げるのかよ!」
シンが叫び返す。
「そこまでにしておけ、シン」
とりあえず、とミゲルが二人の前に姿を現した。
「アイマン隊長」
さすがのシンも、彼には逆らえないのだろう。あるいは、たたき込まれた軍人としての心構えだろうか。反射的に居住まいを正す。
もちろん、他の者達もだ。
「あなた方も、この場は一度,下がっていただけますか?」
そのまま視線を移動させるとこう問いかけている。
「仕方がありません。代表」
かまいませんね、とアスランが視線をカガリへと向けた。
「……わかった」
不本意だが、と彼女は言う。
これで、シンも頭を冷やす時間が与えられるか……とレイはほっとする。
同時に、何が何でもあの二人の存在を彼らに気取られてはいけない。そんな気持ちを新たにする。
シンをはじめとする者達には念を押しておかなければいけない。
「では、こちらに」
ミゲルが二人を案内して行く。
三人の気配が遠ざかったところで、誰もが小さなため息をついた。
「こう言うことだ」
レイはため息をとともにシンに言う。
「了解。あの人が困ることになるって、よくわかった」
即座にシンはうなずき返してくる。
「全く……マジで、自分が悪いって思ってないんだな、あいつ」
自分が正しいと思っている。だから、他人がどう思おうと関係ない。そう考えているのか、と彼はいやそうに顔をしかめた。
「あの勢いで詰め寄られたら、あの人、体調崩すわよね?」
ルナマリアもそう言ってくる。
「あぁ。それが一番怖い」
レイも素直にうなずく。
「いいな? 絶対にあの人達の前で彼らのことを口にするなよ?」
悟られないために、と続ける。
「わかったわ。メイリンにも口止めしておく」
ルナマリアの言葉にレイは「頼む」と口にした。