秘密の地図を描こう

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「どうしたんですか、キラ」
 驚いたようにニコルが立ち上がる。
「ちょっと緊急で内密の相談ができたから」
 そう言い返す。だが、それを口にする前にとキラは振り向く。
「案内してくれて、ありがとう」
 そして、ここまで案内してくれた彼に向かってお礼の言葉を継げる。
「アスカか? 悪かったな、手間をかけさせて」
 そんなキラの肩越しに相手の姿を確認して、ミゲルがそう言う。
「いえ。当然のことです」
 では、と続けると、彼はきびすを返す。そのまま、歩き出した。
「……やっぱり、教官は苦手なのかな?」
 そのあまりに見事な行動にキラはそう呟く。
「ちょっといじめたからな」
 まぁ、いじめられてなんぼだ……と彼は笑う。
「それよりも、何があったんだ? お前が直接ここに来るなんて」
 それが一番びっくりだ、とミゲルは続けた。
「そうですね。まずい人と来た、と思いましたけど……あちらは気づいていないようですし」
 さらにニコルが気になる一言を口にしてくれる。
「アスカ君って、何かまずいの?」
 思わず聞き返してしまう。
「……ちょっと、な。けんかっ早いというか何というか……」
「あのイザークにくってかかりましたからね」
 無謀な、とため息とともにニコルが言う。
「それは……無謀って言うの?」
 キラは思わず聞き返す。
「無謀ですよ。あれでも、現在はザフトの中で最も優秀な隊長、と言うことになっていますから」
 実際、優秀なのは事実だが……とニコルは答えてくれる。
「イザークでなければ、卒業後、厄介なことになったと思いますよ」
 イザークだから、その場だけですむのだ……と彼は続けた。
「ならいいけど」
 それだけではないような気がする。キラは心の中でそう呟く。
「それよりも、何なんだ? メールでも言えないことなんだろう?」
 だが、ミゲルの言葉に自分がここに来た理由を思い出す。
「そうだった! これ、見てくれる?」
 言葉とともにキラは抱えていたファイルを彼らに向かって差し出した。
「どれどれ?」
 何だ、と言いながらミゲルがそれを受け取る。そのまま、視線を落とした。
「キラが自分で持ってきたと言うことは、かなりの厄介事でしょうけど」
 ニコルもまたそう言うと彼の手元をのぞき込む。
 予想通り、と言っていいのだろうか。
 次の瞬間、二人の表情が凍り付いた。
「これは……」
「冗談だとしても見過ごせないな」
 そして、うかつに人に見せるわけにもいかない。いくらキラとニコルがログを改ざんしているとしても、記憶の中に焼き付いたならば消せないのだ。
「どうしたらいいと思う?」
 このまま放っておく訳にはいかないだろうが、とキラは言外に付け加える。
「とりあえず、裏をとりましょう」
 うかつに動けないから、とニコルは言う。
「でも、まぁ……議長に耳打ちしておくぐらいはいいんじゃね?」
 事前に、と言ったのはミゲルだ。
「そうですね。その方がいいかもしれません」
 キラからの話であれば、不確定要素があったとしてもかまわないだろう。ニコルもそう言ってうなずく。
「うん。そうだね」
 問題は、今度、いつ帰るかだ。
 そのあたりのことは後でレイと相談してみよう。そして、少しでも早く機会を作らないと、と心の中で呟いていた。

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