秘密の地図を描こう
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いったい、ミゲルに何を言われたのか。シンの様子がおかしい。
どうやら、相当〆られたらしい。先ほどキラからそんなメールが届いたのだ。しかし、その内容までは彼も知らないらしい。
気にかからないと言えば嘘になるだろう。いや、むしろ今すぐにでも問いかけたい。
だが、ここで下手に声をかけない方がいいのではないか。
そう考えながら、ノートパソコンをたたむ。
「……レイ」
まるでそれに待っていたかのようにシンが声をかけてきた。
「何だ?」
間違いなく、話は先ほどの一件に関わっているのだろう。
だが、自分がそれを知っているとは気づかれてはいけない。そう考えつつ振り返る。
こういうときに、自分のあまり感情が表に出せない性格がプラスに働くな。そう考えながら、シンの顔を見つめる。
「お前……許すことと憎み続けること。どっちが簡単だと思う?」
いきなり何を、と心の中で呟く。
「それは、ずっと憎み続けることだろう」
自分の怒りを持続させればいいだけだ。しかし、許すためには相手のことを考える必要がある。そうなれば、どちらが簡単かは明白だろう。
「いきなりどうしたんだ?」
逆にこう聞き返す。
「……どうしたんだって……そう言われたんだよ、ジュール隊長に」
憎み続けるより許す方が難しいと、と彼はためきとともに告げる。
「そんなことを言われたって、許せないんだから、仕方がないだろう」
家族を奪われたんだから、とシンは言う。
「……フリーダムのパイロットことか?」
そうだろうと思っていたが、と付け加える。
「だが、実際にお前の家族を殺したのはフリーダムじゃないだろう?」
目の前にいた。それだけで憎むのは違うのではないか。
「お前も、俺が間違っているというのかよ!」
即座にシンがこう怒鳴ってくる。
「間違っている、というよりは理解できないといった方が正しいな」
冷静な口調でこう言い返す。
「理解できない?」
「そうだ」
何故、と表情で問いかけてくる彼にレイはしっかりと口にした。
「お前が地球軍を憎むならまだ納得できる。攻撃をしてきたのはそちらだからな」
あるいは、オーブ軍全体を、だ。
しかし、シンが憎んでいるのは《アスハ》と《フリーダムのパイロット》だけではないか。
「アスハも、まぁ、納得だな」
指示を出す立場にあった以上、と続ける。
「しかし、フリーダムのパイロットはあくまでも指示されただけだろう。それに……言葉は悪いが、お前たちを守ることで他の避難民を見捨てることになったかもしれない」
シンにしてみれば家族が優先だと言うのは当然のことだと思う。しかし、全体から見てもそうだったのか。それが理解できない。
「……見捨てられても当然だ、っていうのか?」
「俺たちだって、そう命じられるかもしれない、と言うことだ」
そのときに、同じように憎まれるかもしれない。その覚悟はあるのか、と逆に聞き返す。
「……俺は……」
「軍人である以上、上からの命令は絶対だろう?」
さらにこう付け加えた。
「でも……あいつは軍人じゃなかったって……」
そこまで彼らは話したのか、と思う。
「なら、なおさらだろう。できなかったからとは言え、恨むのはおかしいじゃないか」
相手は訓練を受けた軍人だったのだろう、と付け加える。
「だけど!」
「……きついことを言えば、どうしてお前は彼らを守れなかったのか。自分の責任を誰かに押しつけているだけではないか、と言われてもおかしくないことだぞ」
違うのか? と続けた。
その瞬間、シンはショックを隠せないというような表情を作る。
どうやら、本気で考えたことがなかったらしい。
「……考えてみるんだな、自分で」
自分が口を出していい問題ではないだろう、と続ければシンは小さくうなずいてみせる。
「……でも、俺はフリーダムのパイロットを知らない」
小さな声で付け加えられた言葉をどう判断すればいいのか。自分も考える必要があるな。レイはそう考えた。