秘密の地図を描こう

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 ようやくベッドを離れてもかまわない程度の体力が付いたらしい。ギルバートからの許可が出た。
「ただし、屋敷内にいるように」
 どこで力尽きるかわからないからね、と言われて苦笑を浮かべる。
「わかっているよ」
 さすがに外で行き倒れて見知らぬ誰かに保護されるのはまずい。
 声をかけられるだけならば『他人の空似』で済ませられるだろう。だが身体データーまで調べられては言い逃れができない。
 もっとも、レイのことがあるから、目の前の男が手を回している可能性は大きいが、と心の中で呟く。それでも、少しでも危険を避けた方がいいのはわかりきったことだ。
「そうか。あぁ、キラ君が図書室にいるからね。いじめないように」
 さらりと付け加えられた言葉に思わず眉根が寄る。
「君は私をそんな人間だと思っているのかね?」
 思わずこう言い返す。
「弱いものいじめは好きだろう?」
 違ったのか、と彼は真顔で問いかけてくる。
「……否定はせんが……あの子の場合、いじめるとまずいことになりそうだ」
 おそらく、あの戦いの折に追い詰められすぎたせいだろう。その一端を担った記憶はある。
「おそらく、近いうちにあの子の力が必要になるだろうしな」
 できれば、そのときまでに自分も体調を整えておきたいが……と心の中で付け加えた。
「何。まだしばらくはこの状況を保ってみせるよ」
 ギルバートが笑いながら言う。
「それに……できればもっと、戦力の底上げをしておきたいところだ」
 有能な者達はいる。しかし、実際に戦場で使い物になるかどうかはわからない。彼はそう言いきる。
「そのために、彼には今までも協力してもらったわけだが」
 キラがアカデミーにいたのはそれも理由のひとつではある、とギルバートは続けた。
「もっとも、今しばらくはここにいてもらわなければいけないが」
 セイランがここまで手を伸ばしていたとは思わなかった、と彼は顔をしかめる。
「彼の身柄を奪われるのは不本意を通り越して致命的だからね」
 いろいろな意味で、と付け加える彼にラウもうなずく。
「しかし、何故、セイランだと断言できたのだね?」
 ずいぶんと早い、と関したように言う。
「たまたまだよ。オーブとつながりを持っている人物がいてね。彼が確認をしてくれた」
 だからこそ、こちらも対策をすぐにとれたのだが……とギルバートは言い返してくる。
「なるほど。では、彼のそばにいた方がいいね」
 ここでは何も心配することはないだろう。しかし、万が一と言うこともある。
「そうしてくれるとうれしいね」
 しかし、とギルバートは前髪をかき上げた。
「こうなると、レイに早々にアカデミーを卒業してもらわないといけないかもしれないね。その方が融通が利く」
 護衛という点では、と彼は呟く。
「仕方があるまい。年齢だけはどうしようもないからな」
「確かに」
 それはそうだ、とギルバートも同意をする。
「ともかく、アカデミーの調査は早々に終わらせる予定だよ」
 キラもあれこれと心配しているようだし、と言う。
「そうか。せいぜいがんばるのだな」
 言葉とともに体の向きを変える。そして、そのまま歩き出した。
「無理はしないように」
 そんなラウの背中に向かってギルバートがこう声をかけてくる。
「わかっているよ」
 無理をして、いざというときに動けないのであれば意味がない。言外にそう告げた。
 確かにギルバートはここと決めてしまえば最後まで粘るだろう。
 しかし、それでもこの平穏が続くかわからない。
「所詮、人は変われない生き物なのか?」
 それとも、一部の者達だけなのだろうか……と呟く。それでも、彼はあきらめないのだろう。
「さて……どこで制止すべきかね」
 その見極めが難しい。
 それでも、放っておくことはできそうにない。そう考える自分に自嘲の笑みを浮かべた。

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最遊釈厄伝