秘密の地図を描こう

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「どうだった?」
 感想は、とミゲルが問いかけてくる。
「どうって……」
 そう言われても、とキラは首をかしげた。
「シミュレーター自体、使うのは初めてみたいなものだから……」
 何と言っていいのか、と続ける。
「そうなのか?」
「そう。訓練も全部実機だったし」
 第一、アークエンジェルにMS用のシミュレーターは積み込まれていなかった。何よりも、そんな余裕はなかったし……と続ける。
「……悪い」
 小さな声でミゲルが謝罪の言葉を口にした。
「謝られることじゃないでしょう? それを言うなら、僕なんて君たちを殺しかけたんだし」
 いや。状況が状況であれば間違いなく彼らは死んでいたはずだ。
「恨まれても当然ですよね?」
 そう聞き返せば、ミゲルは苦笑を浮かべる。
「あのな。俺たちは軍人だったが、お前はそうじゃないだろう?」
 素人に殺されかけたなんて、恥にはなっても自慢にはならない。たとえ、その素人がどれだけの才能を持っていても、だ。
 こう言って、彼は苦笑を深めた。
「軍人は殺し合うのも仕事の一つなんだよ。それにいつまでもこだわっていても意味ないしな」
 今はとりあえず平和なんだし……と彼は続ける。
「と言うわけで、今の会話は脇に置いといて……というか、忘れてくれ」
 ニコルにばれるとまずい、と付け加えられた意味がキラにもわかっていた。
「まぁ、ニコルだし」
「そうなんだよな」
 いやそうに顔をしかめながらミゲルはぼやく。
「すごく優しそうなのにね」
 いや、普段は実際に優しいし人当たりもいい。ミゲルの怖がりようがどうしてなのか、最初は理解できなかった。
 それが理解できたのは、ミゲルがミスをしたときだった。あのときは自分の目を疑ったほどだ。
「あれは見た目だけだって」
 中身はなぁ、とミゲルが言った瞬間である。
「何が見た目だけなんですか?」
 背後から声が投げつけられた。
「……ニコル……」
 何でここに、とミゲルが焦ったように口にする。
「キラの様子を見に来たに決まっているじゃありませんか」
 あきれたように彼が言う。
「あなたがキラに無理を強いているのではないか、と不安になりましたし」
 それでキラが倒れたりしたら本末転倒ではないか。その言葉に、キラはかすかに肩をすくめる。
「とりあえず、大丈夫だよ」
 今のところは、とそれでも言い返す。
「キラの『大丈夫』は信用できません!」
 だが、そのセリフを一刀両断にされてしまう。
「ニコル?」
「この前も熱を出したそうじゃないですか」
 レイに聞いたが、と彼は続けた。
「……内緒にしておいてって言ったのに」
 その条件でギルバートに連絡を取ることを認めたのに、とかすかに眉根を寄せる。
「彼を怒らないでください。僕が勝手に聞き出したんですから」
 教官特権です、と彼は胸を張った。
「それはなんか違うような……」
「いいんですよ」
 キラを守るためだから、と彼は笑う。
「ですから、あなたも気をつけてくださいね、ミゲル」
 その微笑みがミゲルへと視線を向けた瞬間、微妙に変化した。
「わかってるって。だから、レイ以外とは対戦させてねぇし……あっという間に終わっても再戦させなかったぞ?」
 今日のところは自分の相手をさせるつもりもない。そう彼は言う。
「なら、いいですけど」
 本当に、と言わないのは彼なりにプレッシャーをかけているからだろうか。
「でも、気をつけてくださいね。あなたも熱くなると何をするかわからないですから」
 そう締めくくる。これならば、ごまかせたのだろうか。一瞬、そんなことを考える。
 だが、それはまだ甘かったらしい。
「それで、何が『見た目だけ』なのですか?」
 微笑みとともに彼は再度問いかけてきた。それに何と答えるべきか。キラにはどうしてもわからない。
「……えっと……」
 助けを求めるよう視線を向ければ、すでにミゲルは白旗を揚げている。彼らに逃げ道はなかった。

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最遊釈厄伝