海岸線ではしゃぐステラ。その様子は、年齢よりももっと幼く感じられる。 そんな彼女をどこかあきれながらもスティング達は、黙って見守っていた。 同じ頃、デュランダルは基地から離れていく。そんな彼の行動をこの地の者達が好意的に受け止めてくれたらしい。 その事実に、彼はうっすらと微笑んでいた。 そのころ、アスランは与えられた部屋の中で眠っていた。 しかし、何か違和感がある。 それがなんなのか……と思いながら、彼はうっすらと瞳を開いた。 「……ぇっ?」 自分の隣にミーアが眠っていることに気づいて、アスランはそのままベッドから転がり落ちる。 まだ完全に意識が覚醒していないからだろうか。アスランはどうしていいのかわからない。 しかも、タイミングが悪いことにルナマリアがその場にやってきた。何とかごまかそうとしたのに、その彼女にミーアが勝手に対応をしてしまう。 「どういうつもりだ」 その事実に、アスランは怒りを感じてしまった。 「あの子……」 「何でこんな事をするんだ、君は!」 久しぶりにあった婚約者であればこうするだろう、とミーアは平然と言い返してくる。その言葉の裏に、何か思惑を感じてしまうのはアスランの錯覚だろうか。 それよりも先に、彼女の考え違いをたださなければいけない。そう思って、アスランは口を開く。 「ラクスはこんな事はしない!」 彼女がそう言うことをしたがる相手がいるとすれば、間違いなく《彼》だけだ。もっとも、それは自分も同じだ、と言える。 「しないの? 何で?」 しかし、本気でミーアには理解ができないらしい。首をひねっている。そんな彼女にアスランは忌々しさすら感じていた。 自分が欲しいのは、彼女や本物のラクスではない。もっとも、それを理解して欲しいとも思わないが、勝手に事を進めないで欲しいのだ。 あるいは、彼女はラクスに成り代わろうとしているのか。 アスランの中で、彼女に対する嫌悪感が芽生え始めた。 茶を飲むハイネの前を通り過ぎていくシンとルナマリア。それに気づいて、彼は気軽に声をかけてくる。 「昨日のミネルバのひよっこだろう? フェイスの奴はどうした?」 それは何気ない問いかけだったのだろう。 「隊長はまだお部屋だと」 だが、ルナマリアの反応はどこかおかしい。それは、シンにもわかってしまう。 「ルナ?」 どうしたのか。そう問いかけようとしたとき、ミーアとともにアスランが姿を現した。彼女にからみつかれている彼が、どこかいやがっているように見えるのはシンの錯覚だろうか。 だが、ハイネには関係なかったらしい。彼は即座にミーアに対し礼を取る。 その次の瞬間、視線をアスランに向けた。 「昨日はごたごたしてして挨拶もできなかったな。ハイネ・ヴェステンフルスだ」 そして、こう自己紹介をしてくる。 「アスラン・ザラです」 即座にアスランは敬礼を返すと、こう言い返す。 「知っているよ。有名人」 くすりと笑いながらこう告げる彼に、アスランは困ったような表情を浮かべている。それがどうしてなのか、シンにはわからない。自分であれば、それを誇るだろうに、と思うのだ。 それでも、対等に会話を交わしているのは、それぞれの経験故だろうか。 こんな事を考えていたときだ。 「ラクス様。ラクス様には今日の打ち合わせがありますので」 彼女の護衛の者がこう言って声をかけてくる。 「……仕方がありませんわね」 どこか気に入らない、と言うように彼女は頬をふくらませた。それほど、婚約者の側にいたいのだろうか、とシンは思う。だからといって、ここでだだをこねるほどではないらしい。おとなしく離れていく。 それを見送って、ハイネはまた、いすへと腰を下ろした。 「この三人と、昨日の金髪とで全部で四人か?」」 それがミネルバのパイロット達のことなのだろう、と判断したのだろう。アスランは頷いている。 「で、お前フェイスだろう? 艦長も」 ハイネが眉間にしわを寄せながらこう呟く。 「何で俺に、そんな船にいけと言うんだ、議長は」 さすがに、これは予想していなかった。まさか、そう言うことになるとは思えなかった、というのが事実だ。 だが、議長には何か考えがあるのだろう、とシンは思う。 「まぁ、いいさ。ともかく、よろしくな」 同じようなことをハイネも考えたらしい。あっさりとその話題を打ち切る。 「はい、よろしくお願いします」 三人は言葉とともに礼を作った。 「ではアスラン」 表向きは、彼女は《ラクス》なのだ。 だから、見送るのも自分の義務だ……とアスランは自分に言い聞かせる。 「どうぞ、お気をつけて」 そして、堅い口調でこういった。そんな彼の態度をどう受け止めたのだろう。彼女がキスをしてこようとした。それをアスランは強引に押しのける。 「いい加減にしろ!」 あくまでも、ラクスの身代わりだから、そういう態度を取っているのだ。でなければ、最初から相手にしない、とアスランは思う。 しかし、彼女にはそう考えられなかったのだろうか。不満そうな表情を作っている。 その意識の差が、これから悪い方向へ向かわなければいいのに……とアスランは心の中ではき出した。 バイクで駆け抜けるシンの脳裏を、デュランダルとアスランの言葉が駆け抜けていく。 そして、カガリの言葉も。 それは今でも嫌悪を感じさせるものだ。今までの経験してきた戦いの中で、それはさらに増していると言っていい。 だが、今はそれを考えたくない。 その思いのまま、シンはさらにスピードを上げた。 やがてたどり着いた崖でシンはバイクを止める。その視線の先には青い海が広がっていた。 同じ海なのに、オーブのそれとは違う。 こんな事すら考えていたその時である。彼の耳に歌声が届く。 「……あいつ……」 視線を向ければ、プラントで出会った少女の姿が確認できた。だが、彼女は予想外の事をしてくれる。そのまま、彼女は海に落ちてしまったのだ。 「嘘だろう落ちた?」 慌てて駆け寄ると、シンは崖下を眺める。そうすれば、もがいている少女の姿が確認できた。 「泳げないのかよ」 このまま放っておくわけにはいかない。そのまま、自分も海に飛び込む。そして、すぐに彼女の側まで泳いでいく。 パニックを起こしている彼女を落ち着かせようとするが、彼女の耳には届かないらしい。 仕方がなく、一度海中に引き込む。 そして、また海面へと引き戻せば、ようやく彼女の思考は現状に気が付いたのか。動きを止めた。 力を失った少女の体を抱えるようにして、シンは崖下まで戻る。 「死ぬ気か! このバカ!」 そして、こう怒鳴る。それは、当然の行動だろう、とシンは考えていた。 「……死ぬ?」 その言葉に少女は予想以上の反応を見せる。 「いやぁ!」 叫び声を上げると、彼女はまた深みの方へと戻ろうとする。 「死ぬのはいや! 怖い!」 慌ててシンは彼女の後を追いかけた。 「だから待てって!」 そして、必死に抱き留める。 「いやぁ! 死ぬのは……いやぁ!」 パニックになった少女の言葉に、戦争後の光景を思い出す。あの地で、多くのものが殺されていった。現地の人々に殺された地球軍の兵士に関しては当然だとは思う。 だが、それ以外の人間となると、話は別だ。 「大丈夫だ! 君は死なない。俺がちゃんと、俺がちゃんと守るから」 そう言って抱きしめる。そうするために、自分はザフトに入ったのだ。 「ごめんな。俺が悪かった」 シンの言葉をどう受け止めたのだろうか。今までとは違う様子で少女は泣き出す。 「大丈夫だから。もう大丈夫だから……俺が守るから」 だから、泣きやんでくれ……とシンは心の中で付け加える。 「守る?」 「うん。君は死なないよ。絶対に」 見た目とは違う反応に、シンはどきっとする。 「守る……」 シンの手を頬に当てて少女は微笑む。 安堵しているとわかるその様子に、シンも微笑み返した。そのまま視線を動かせば、彼女がけがをしているのがわかった。 「大丈夫? 寒くない?」 こう声をかけながら、シンは移動する。そして、彼女の手当を始めた。 「でも、どうすりゃいいんだ?」 彼女は泳げないらしい。と言うことは、海から戻るのは難しいだろう。 「君は、この街の子? 名前は?」 ともかく、彼女について聞いておかないと……と思いながらこう問いかける。 「ステラ」 彼女はあっさりと名前を教えてくれる。だが、それ以外はよくわからないらしい。 「いつもは誰と一緒にいるの?」 こう問いかければ、彼女はちょっと考え込むような表情を作った。 「ネオとスティングとアウル……お父さんとお母さんは知らない」 この言葉から、あるいは何かショックなことがあって精神的に退行してしまったのかもしれない。ならば、今までの言動も全て理解できる。 「怖い?」 マユにしていたようにそっとその髪の毛をなでてやりながら、シンは言葉をかけた。そうすれば、ステラはすぐに頷いてみせる。 「俺がちゃんと守るから」 力がなくて、マユの時にはできなかったが……彼女には、とシンは思う。 「ステラを守る? 死なない?」 そうすれば、彼女はすぐにこう問いかけてきた。 「あぁ。俺はシン。シン・アスカ」 そして、シンに呼びかけようとして困っているような表情を作る。そう言えば、彼女に自分の名前を教えた。 「シン?」 「そう。シン」 それを耳にした彼女が、不意に立ち上がる。そして、干してあるワンピースに駆け寄る。一体どうしたのだろうと思えば、彼女はポケットの中から何かを取り出す。そして、そのままシンの元へ駆け戻ってきた。 「はい?」 ステラは言葉とともにシンに手を差し出してくれる。その手のひらに、小さな桜色の貝がのせられていた。 「俺に?」 くれるのと、言えば、ステラは小さく頷いてみせる。そんな彼女にシンは微笑みを返した。 クルーザーでアスランが二人を迎えに来る。 「休暇中にエマージェンシーとは、な」 あきれたような口調で彼はこう言ってきた。確かにそう言われても仕方がないのかもしれないがと、シンは思う。でも、自分にも理由があるのだ。 「別に遭難したわけではありません」 その気持ちのまま、シンはこう言葉を口にする。 「この子が崖から落ちて……助けたのはいいのですが……動けなくなって……泳げないらしいですし」 言葉とともに、シンはステラの体を抱き寄せる。 「名前は?」 「ステラです」 アスランの問いかけに、シンが変わって答えを返す。 「家は?」 「それは……どうやら、先日のあれでご家族を亡くしたかどうかしたらしく……この街に来たばかりだそうです」 場所は覚えているが、地名がわからないのだ、とそう言えば、アスランはかすかに眉を寄せた。 「そうか……」 それ以上、彼は何も言わない。その代わりに、二人をクルーザーに乗せてくれた。 ステラを乗せて、彼等はシンと彼女が出会った場所へとジープで向かうことにした。そこからなら、ステラも自分がいた場所がわかるだろうと判断したのだ。 「スティング!」 しかし、そこに着く前に、ステラはこう叫んだ。その声が聞こえたのだろうか。すれ違おうとした車が止まる。 「ザフトのジープじゃないか、あれ」 「どうしたんだ、あれ」 車に乗っていた二人が不審そうに視線を向けてくる。 「海に落ちたんです。でも良かった。どうしようかと思ってたんです」 ステラのためにも、事情を説明してやろう。そう判断して、シンはこう口にした。 「そうですか」 年上らしい青年がほっとしたような表情を作る。こうなれば、後は彼等にませた方がいいだろうとシンは判断した。 「では、私たちはこれで」 アスランも同じ考えに行き着いたのか。こう言うと、車に戻ろうとする。 「ザフトの方々には本当にお世話になって」 シンに向かってスティングと呼ばれた相手がこう声をかけてきた。 「当然のことをしただけですから」 「シン、行っちゃうの? そのままきびすを返そうとしたシンの腕を取ってステラがこう言ってくる。 「でも、もう大丈夫だろ。また会えるから」 にっこりと微笑むとこう告げた。それでも、彼女は納得してくれない。それでも、戻らなければいけないのだ。 「ごめんね、ステラ。また会えるから!」 こう言い残すと、シンはジープに飛び乗る。そのまま、ジープは走り出した。 「シン!」 ステラは反射的にシンが乗ったジープを追いかけようとする。それを、アウルが抑えた。 「参った参った。マジ、驚いたぜ」 こう言いながら、ステラに車に乗るように促す。 「シン……ステラ、守るって……」 そう言ったのに……と彼女はいつまでもシン達がさった方向を見つめていた。 DESTINYって、ラブコメですか……と思わず言いたくなってしまった回です。 それにしても、最近のミーアは……苦手です。出てきたばかりの頃はまだ我慢できたんだけど……どうしてでしょうね。 05.03.25 up
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