迷路自分以外のコーディネーターと関わったことがないわけではない。 しかし、その多くは自分と同じ年代の者であったし、民間人だったと言っていい。 敵――ザフトの軍人で実際に顔を合わせたことがある者……と言えば、ただ二人しかいなかった。 その内の一人は、会いたくて会いたくなかった人物。 誰よりも大切で、誰よりも大好きで……だからこそ、今の自分を知られたくなかった幼なじみ。 そんな彼と今の友人達を秤にかけて後者を選ぶ結果になったのは、それが理由ではない。単に、自分がいなくなれば彼らの命が保証されなかったからだ。いや、彼らだけではなかった。あの時、僕が背負っていたのは多くの人々の命。最も、それはもう失われてしまったけど…… 「守りたかったのに……守るはずだったのに、僕が……」 守りきれなかったのは、自分が『彼』の手を望んでしまったからだろうか。 だから、もう誰も失いたくない。 その思いが、自分を追いつめるとわかっていてもこの場から逃げ出せない。 例え、自分自身が彼らに利用されているだけだとしても……それは僕が甘んじて受けなければならない罰なのだろうと思う。 そんな自分を見たら、彼が何というかを考えればとても怖い。 だが、逃げ出すこともできないと思う。 今ですら、守りたかった友人達の一人を傷つけてしまったというのに…… 「……僕は……」 どうしたらいいのかわからない。どこに行けばいいかすら見失いかけているのかもしれない。 「でも、守らなきゃ……」 それだけが今すがれるすべてだったはずなのに…… 情報収集に出かけたカガリに付き合った先――彼女に護衛が必要かどうか何て言うのはかなり疑問だったんだけど――であったもう一人のザフトの軍人。『砂漠の虎』と呼ばれ、この地を支配しているザフト軍の隊長。 しかし、実際にあったあの人はそんな風に見えなかった。 どこにでもいるような……と言っては語弊があるだろう。だが、誰かとだぶるような言動は嫌だと言うほどではない。彼のナチュラルに関しての考えは――僕にはわからないけれど――おそらく、プラントにいる人々に共通したものなのかもしれない。それを言ったなら、ナチュラルの中にいるブルーコスモスの人々の主張だって……という気もしないでもない。 だけど、カガリと共に連れて行かれた彼の家であんなセリフを聞かされるとは思わなかった。 「どうなったら、この戦争は終わると思う? モビルス−ツのパイロットとして」 彼には自分の正体がばれていた。 それなのに、どうして自分を拘束しなかったのか……と思わずにはいられない。だが、それ以上に彼の言葉に返すべき物がない自分に気づかされてしまったことに僕は愕然としてしまった。 「戦争には制限時間も得点もない。なら、どうやって勝ち負けを決める?」 そんなこと、わからない。 そもそも、戦争が終わる日が来るかどうかなんて言うことも想像できないのに。 僕にできるのは、少しでも多くの人を守ることだけなのに…… でも、この人はそんな僕の逃げ道を完全に塞いでくれる。 「敵である者をすべて滅ぼして、かね?」 そんなこと、考えたこともなかった。 それは間違いなく僕の本音。 確かにそれは一つの方法だろう。だけど、それができるわけはない。敵であるのは間違いなく僕と同じ種類の人々だから……そして、その中には彼――アスランも含まれている。 僕自身が死ぬのはいい。 でも、彼には生きていて欲しい。 だけど、このまま戦争が続けば、彼の命が失われる可能性だってないとは言い切れない。僕も彼も……戦場に身を置いているから。 だったら、どうすればいいんだろう。 考えても答えが出てこない。 あの後、あの人が僕たちを解放してくれてからずっと考えているのに、だ。 そもそも、どうしてあの人は僕たちを解放してくれたのか。 僕の正体がわかっていたのなら、よくて拘束、悪くすれば殺されてもおかしくなかったはずだ。 「……戦争を終わらせる方法……」 そんなものがあるのか。 僕がこうしていることがいけないのか。 僕が戦うMSのパイロットにも家族はいる。それを目の当たりにしては今までのように戦えるのかどうかわからない。でも、僕が戦わなければアークエンジェルは間違いなく沈んでしまう。 守りたい人たちを見捨てることなんてできるわけはない。 でも…… 「どうすればいいんだろう」 まるで、迷路に迷い込んでしまったかのように、僕の思考は同じ所を回り続けている。 誰か、答えを教えて欲しい。 誰か、僕をここから連れ出して欲しい。 願う声は誰の耳にも届かない。 「……僕は……」 自分の体を抱きしめる。 そのまま僕は瞳を閉じた。 一時だけでもいいから、すべてを忘れたくて…… 闇だけが、僕を優しく包み込んでくれた。 終
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