届け物



「あの……何かあったんですか?」
 ブリッジではなくラミアスの私室に呼び出されたキラは、その場に勢揃いをしている面々を見て少しおびえたようにこう問いかけてきた。
「何かあったというか、何というか……」
 苦笑を浮かべつつラミアスが真っ先に口を開く。
「ちょっと困った物を拾ったものでな」
「しかも、坊や宛だと来ている」
 バジルールとフラガもそんなラミアスをフォローするかのように付け加えた。
「……僕宛……ですか?」
 いったいどこからとか、どうやってとか様々な感情がキラの脳裏を駆けめぐる。
「何で、それが僕宛だと……」
 ともかく、無難なところから整理していこうとキラは問いかけた。
「手紙が着いていたんだわ。今時珍しい手書きの」
 そう言いながら、フラガが封筒を指し示す。それには確かにキラの名前が書かれてある。
「どこから……」
 ここに郵便配達はいないはず、とキラは頬を引きつらせた。
「トランクに貼り付けられた状況でアークエンジェルのドックにだな」
 いったいどうやればそんなことが可能なのか……とバジルールは額を抑える。
「……誰が……」
「そこまではわからん。一応、個人宛だから、手紙のチェックもしていない」
「そう言うわけだから、キラ君。ここで開けてくれる?」
 危険物であればすぐに処分しなければ行けないから……と付け加えられて、キラは素直に頷く。そして、フラガから手渡された封筒の封をまず切った。
 中には一枚のカード。
「……えぇぇぇっ!」
 キラが好きな花が描かれたそれにあった署名を見た瞬間、キラは思わず叫んでしまう。
「どうした、坊主」
 そう言いながら、フラガがキラの手元を覗き込んでくる。次の瞬間、彼は耐えきれないと言うように爆笑をした。
「お、姫さん……最高だ……お前はシャア・アズナブルかって……」
 けたけたと笑いながら、フラガは腹を抱えている。
「……どちらかというと、この場合、キャスバル・レム・ダイクンの方がいいんじゃないの?」
 それに真っ先に反応を返したのはラミアスだった。
「……プラントでは今放送をしているのか、あれを……」
 信じられないと呟きつつ、バジルールはこめかみを押さえている。
「……何なんですか、それ……」
 一人キラだけが意味がわからない。思わず問いかけの言葉を口にしてしまう。
「私たちが子供の頃にはやった番組だ。その中にこれとよく似たシーンがあるんだ」
 大尉達はそれを思い出したのだろうとバジルールはキラに説明をしてやる。残りの二人がしなかったのは、ひたすら笑い転げているからと言うくだらない理由からだったりする。
「……ひょっとして……トランクの中身は……金塊?」
 ようやく笑いが収まったらしいフラガが、息も絶え絶えに言葉をつづった。
「そんなの、僕にわかるわけないじゃないですか!」
 キラは脱力感を感じつつ言葉を口にする。
「そうだな。君は正しい」
 バジルールもそんなキラと同じ思いを感じているのだろう。大きく頷きながら同意を見せた。
「一応、爆発物等ががないことだけは確認している。だが、君のデーターがロック解除の条件になっているらしいのだ。悪いが、開けてくれないか?」
 彼女がこの中で一番建設的な考えを持っているようだ。キラはそんなことを考えながらトランクへと歩み寄っていく。そして、蓋の部分につけられたロックへと触れた。
「……開いた……」
 それはあっさりとロックを解除する。どうやら、キラの指紋を解除キーにしていたらしい。しかし、いつの間に……とは思わずにいられない。あるいは、あのアスランが作ったというハロにそう言う機能が付いていたのだろうか。そんなことを考えながら、キラは中を確認する。
「……チョコレート……ですよね、これって……」
 そこにあったのは、密閉されたかわいらしい箱だった。その箱の小窓から見えるのは、どう見ても……だが、理性がそれを認識したがらない。キラは三人に確認を求める。
「ちょっと! それってプラントの高級メーカーの絶品チョコレートじゃない!」
「本当だ。食べたいと思っても、なかなか手に入れられないので有名なメーカーの物だな」
 女性は『太る』と言いつつ、どうしてこう甘い物が好きなのか。ラミアスだけではなくバジルールですら瞳を輝かせてこう告げた。
「……そういや……バレンタインだっけ……」
 フラガの言葉に、どうしてチョコレートなのか、キラもようやく理解をした。同時に、カードに書かれていた言葉の意味も。
「こちらはチョコじゃないようだが……」
 トランクの隅にそうっと置かれた箱を見つけたフラガがこういった。そして、取り上げようと手を伸ばす。それよりも早く、キラはそれを握りしめた。
「どうした、坊主?」
「これは……内緒です」
 あははははと乾いたもらいを漏らしつつ、キラは言葉を続ける。
「チョコレート、みんなでわけましょう。僕はそんなに食べられませんから」
 次の瞬間、女性陣二人の口から歓喜の声があがったのは言うまでもないだろう。フラガの意識がそちらに向けられた瞬間、キラは脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「お、おい、坊主!」
 フラガが慌てて止めようと手を伸ばすが、キラがドアをくぐる方が早い。そのまま彼は誰もいない場所を求めてストライクのコクピットへと逃げ込んでしまった。
「……いったい何を考えているんだよ、ラクスは……っていうより、いつの間に作ったわけ、こんなもの……」
 はこの中にあったのは、小さなマスコット。一つは連邦軍の、もう一つはザフトの軍服を着ている。その上、つながれている手の上にはハートまでつけられていた。しかも、その顔はものすごくモデルの特徴を捉えている。
「こんなもの、見られたら恥ずかしいじゃないか」
 誰が見ても片方は自分だとわかってしまうだろう。そして、もう一人がアスランだと言うことは聞かなくてもわかってしまった。
「……嬉しいけどさ……」
 そう呟きながら、キラはそうっと胸に抱きしめたのだった。

 その後、そのマスコットがどこに隠されたのか、キラ以外知るものはいなかった……

ちゃんちゃん