「ミゲル!」
 こう言いながら、小さな体が腕の中に飛び込んでくる。
「久しぶりだな、キラ」
 その体をミゲルは当然のように抱きしめた。
「何ヶ月ぶりだ? 終わったのか、任務は」
 そしてこう問いかける。
「うん。しばらくは普通にクルーゼ隊勤務だよ」
 だから、こうしていられるとキラは満面の笑みで言葉を返してきた。
「そうか」
 なら、俺も安心だな……とミゲルも笑い返す。
 キラの実力は、ザフトの中でもトップクラス。足りないのは年齢と生活能力だけ。それさえあれば、隊長になってもおかしくはないのではないか、と噂されているほどだ。
 もっとも、本人にその気がないことは誰もが知っている。
 何よりも、任務中でないキラの生活態度を見ていれば、そんなことをさせられないと考えて当然だろう。一応、キラの《恋人》と言う立場のミゲルですら、どうしてこのオコサマが任務では誰でもまねできないようなことをできるのに、普段はこんなに手がかかるのかと思ったことが、一度や二度ではないのだ。
 もっとも、そんなことを苦労に感じないほど、腕の中の存在におぼれていると言うことは否定しない。
「じゃ、キスしてもいいよな?」
 ともかく、離れていた分ぐらいは……とミゲルは囁く。
「うん」
 僕も、ミゲルとキスをしたい……とキラはすぐに言葉を返してきた。そして、そのままミゲルの首に細い腕を絡めてくる。
 そんな仕草も可愛い、とミゲルは思う。
 しかし、それを口に出すことはできない。そんなことを言えば、キラがむくれることはわかりきっているのだ。
 そのせいで側にいるのに触れられなくなるのは辛い。
 だったら、行動でその気持ちを伝えるしかないか。
 こう考えると、ミゲルはキラの唇に自分のそれを重ねる。
「んっ……」
 誘うように開かれたキラの唇の隙間から舌を滑り込ませた。
 そうすれば、キラのそれが出迎えるかのように触れてくる。
 そんな仕草すら、自分が彼に教え込んだものだ。それに代わりがないことに、ミゲルはほっとする。
 本人が気づいているかどうかはわからないが、キラはすごくもてるのだ。
 自分がこうして、彼に一番近い位置しめていられるのは、偶然のたまものかもしれない。そんなことすら考えてしまう。
 だからこそ、だ。
 キラに見捨てられないようにあれこれ努力をしなければいけない。そう考えるだけで実力以上の活躍ができているのかもしれないとミゲル自身思っている。
「……ぁっ……」
 十分に甘い唇を堪能したところで解放してやれば、どこか物足りないというような表情を彼は作る。それが誘われているようで、ミゲルは自分を押さえつけるのに苦労してしまう。
「……ここが外じゃなければな……」
 こんな自制なんてするつもりはないのに……とミゲルは口の中だけで呟いた。
「……ミゲル?」
 どうしたの? と上気した顔でキラが問いかけてくる。それになんと言ってごまかそうか、と思ったときだ。まるでタイミングを計っていたかのように、キラの端末が自己主張を始める。
「……隊長のところには、さっき行ったばかりなのに!」
 今度は誰の呼び出しだよ、とキラは頬をふくらませた。
「まぁまぁ……夜は時間がとれるんだろう? 部屋で待ってるからさ」
 そこでじっくりとな、と付け加えればキラはさらに頬を赤く染める。
「それとも、いやか?」
 なら、我慢するが……と付け加えれば、キラがその表情のままにらみつけてきた。
「そんなこと、言ってないじゃん」
 こう言い返してくる声に力がない。
「じゃ、待っててやるからさ。さっさと厄介ごとを終わらせて帰ってこいよ?」
 な、と声をかければ、キラは小さく頷いてみせる。
「じゃ、行ってこい」
 本当ははなしたくないのだが、と思いながらミゲルは腕の中からキラを解放する。そうすれば、彼はくるっと体の向きを変えた。そして、そのまま二、三歩すすみかけて足を止める。
「キラ?」
「忘れてた。おみやげ!」
 そう言って、彼は何かをミゲルに向かって放り投げてよこした。反射的に受け止めれば、それはたばこの箱らしい。とっさに銘柄を確認すれば、片方はプラントでは入手がほぼ不可能な地球製のものだ。
「キラ?」
 たばこ嫌いだっただろう、と言う言葉をミゲルが口にする前に、
「ただし、僕の前ではすわないでね」
 にっこりと微笑みながら、キラはこう告げた。
「じゃ、また後で」
 そしてこう言い残すと、今度こそかけだしていく。
「まったく、可愛いことを」
 してくれるよな、とミゲルは箱をもてあそびながら呟いた。
「こっちはともかく、こっちはどうやって見つけ出してきたんだか」
 小さな笑いとともに見たことがない銘柄のものを視線の高さまで持ち上げる。
「シュガレット・チョコな」
 今時、どこでも売っているのを見たことがないぞ、と低い笑いを漏らす。
「……そういや、今日は……」
 2月13日か、とミゲルは呟く。明日は、確か、バレンタインデーだったはず。
 だからかな……と呟きながらそれをポケットの中にしまい込んだ。そして、部屋に向かおうと歩き出した。





05.02.12 up



と言うわけで、何故かミゲキラでバレンタインネタを……一応、拍手で連載している二人のイメージですが……他の設定でもよさそう。