届け物?

「……あの……」
 何なんでしょう、これは……とキラは思わず目の前の相手に問いかけてしまう。
「何なのだろうねぇ」
 所か、この艦の実質的責任者から返ってきたのは、こんなセリフだった。
「バルトフェルドさん」
 そんな彼の態度に、キラは思わずため息をついてしまう。
「いや、本当に。危険物でないことだけは確認したんだがね」
 個人宛である以上、迂闊に開けるわけにはいかないだろう……と彼は笑った。その言葉に、キラは『あれ?』と思う。以前同じようなことがあったことを思い出したのだ。
「キラさん?」
 どうかされたのですか……と側にいたニコルが声をかけてくる。
「……前に、同じようなことがあったから……」
 別段隠す必要もないだろう。そう判断をして、キラはこう言葉を返す。同時に、それが現在の状況を生み出す原因になったんだよな、と心の中で付け加えた。
「って、あれか? キラ」
 その理由を作った当人から何か聞いていたのだろうか。アスランがこう問いかけてくる。
「そう。バレンタインの話……」
 あれが全ての元凶だったような気がする……とキラは小声で囁く。そんなことをしても、ラクスにはばれてしまいそうだけど、と思うのだが、言わずにはいられなかったのだ。
「あの時も、やっぱり、こんな風に呼び出されたんだよね……」
 そして、貰ったのがチョコレートとこれだったんだけど……と言いながら、キラはいつも持っている自分たちのマスコットを取り出す。
「あの時は……本当に嬉しかったし、みんなにも喜んで貰えたからいいんだけど……」
 こう付け加えながら、キラがマスコットに視線を落としたときだ。
「それよりも、実物の方が良いと思わない?」
 こんなセリフとともに、アスランがキラの顔を上げさせる。そして、満面の笑みを向けてきた。
「そうですよ、キラさん! 第一にして、問題なのはそれじゃないですし」
「そうよネ。大切なのは、それの中身だわ」
 だが、そのままキラの視界を独り占めしようとしたアスランを他の者たちが許すはずがない。しっかりと邪魔をしにやってくる。
「……ともかく、開けてみればいいのでしょうか……」
 このままではまずいことになる。そう判断をして、キラはこう口にした。
「そうですわね。私としても、中に何が入っているのか非常に気になりますもの」
 ラクスがこう口にしながら、さりげなくキラの隣に近づいてくる。そして、そのままキラの手元を覗き込んできた。
 それに気が着いた瞬間、アスラン達の唇から忌々しいというようなため息がもれる。それをキラは聞かなかったことにした。
「アスラン、そう言うことだから……」
 ちょっと退いて、とキラは微笑みつつ彼に告げる。
「でも、キラ……」
「あのね……僕だって、一応男で、コーディネイターなんだよ?」
 普通のことであればちゃんと対処できる、とキラは主張した。
「わかってはいるんだけどね……でも、さ」
 もう、キラを傷つけるようなことをさせたくないのだ、とアスランは微笑む。
「だからね。俺が開けるよ。いいだろう?」
 言葉と共にアスランはそれに手をかけた。
「アスラン!」
 そして、キラが反応をするよりも先に、中を開けてしまう。
「……写真?」
 怒るしかないのか……と思ったキラが口を開こうとすれば、アスランの口からこんなセリフがこぼれ落ちる。
「どうかしたんですか?」
 だが、それにしては何かがおかしい。
 そう判断をしたのだろう。ニコルが彼の側に近づいていく。キラもそうしようと思ったのだが、ラクスとアイシャにしっかりと邪魔されてしまった。
「アルバムだと思うんだが……中を確認してもいいか?」
「自分でするってばぁ!」
 キラはアスランの問いかけにこう叫ぶ。そして、そのまま自分を押さえつけている二人の手を逃れようとした。
「まぁまぁ。キラさんが目にしない方が良いかもしれませんし……確認させてください」
 ところが、ここには誰もキラの味方をしてくれるものはいないらしい。ニコルが笑みと共にこう言ってくれば、
「プライベートなものでしたら、アスランでも遠慮してくださるはずですわ。だから、ね?」
 ラクスもまた微笑みと共にキラの行動を制止してくれる。
「だから、僕宛なんでしょう? だったら、僕が確認するのが普通じゃないか!」
 どうしてアスランが勝手に開くんだよ! キラはさらにこう付け加えた。だが、周囲はまったく気にする様子を見せない。
 中身を確認していたアスランの眉が、思い切り寄った。
 ニコルはニコルで、いつもの柔和な表情は完全に消え去っている。
 バルトフェルドもまた複雑な表情を作って中身を見つめていた。
「これって……まさかと思うんだが……」
 それでも、さすがに年長者の意地なのか。必死に言葉を探している。それは、アイシャやラクスに伝えなければならない、と考えているからかもしれない。
「だから、何なの? アンディ!」
 さっさと口にしなさいよ、とアイシャが突っ込む。
「いわゆる、だな……お見合い写真じゃないか、とおもってね……」
 それも、キラ君に向けた……と彼は付け加える。
「お見合い写真……って、あの……」
 自分はまだ、そんな年齢じゃない……と、キラは思わず口にしてしまう。
「そういう問題じゃない、と思うわよ、キラちゃん?」
「年齢をいうのであれば、私とアスランはどうなりますの?」
 アイシャだけではなく、ラクスまでもがからかうように声をかけてくる。
「でも……僕は、アスラン達と違って……」
「はいはい。わかっていますよ。でも、キラさんの場合、別の意味で相手を選ぶのが大変そうですけど」
 いや、アスランを筆頭に、争奪戦になりそうだ……と口にするニコルが、実は一番そう思っているのかもしれない。
 だが、その事実を指摘するような無謀な真似をする人間は、ここには誰もいなかった。
「……ともかく、写真の中身だけは、僕が確認するからね」
 ともかく、これ以上過保護軍団の好き勝手にさせてはいけない。そう判断したのだろうか。キラがきっぱりとした口調でこう告げる。
「やめておいた方が良いと思うよ?」
 だが、アスランはあっさりとキラの言葉を却下してくれた。
「アスラン! これ以上何かしたら、本気で嫌いになるからね!」
 だからといって、キラだって負けてはいない。
「他の、みんなも……だからね!」
 今のところ、キラのこのセリフは成功率100%を保っている。それだけ、周囲の面々がキラに甘い、と言うべきなのか。これがアークエンジェルであれば、こう上手くはいかない。
「……わかった……ただ、俺も一緒に見るからね……」
 それで妥協をする、とアスランは渋々と口にする。
 ラクス達も仕方がない、と判断したのだろう。ゆっくりと抱きしめていたキラの腕を解放した。
 それでようやくキラは問題の箱に近づくことが出来る。
「何か、凄い表紙だね……」  そうすれば、綺麗な布で装幀されたアルバムをようやく確認することが出来た。実際に目の当たりにしたそれに改めて目を丸くしながら、キラはそれを取り上げる。
 その瞬間、一緒に入れられていたらしい紙が衝撃で浮かび上がった。
「何か書いてある……」
 キラはあわってそれを捕まえる。同時に、無意識のうちにそれに書かれてある文字を読んでいた。
「……身上調書?」
 何これ、とキラは呟いてしまう。
「本気で、見合い写真のつもりだったのか……」
 いったい、誰だ……とバルトフェルドがため息をつく。他のメンバーも、興味津々と言った様子でキラを見つめてきた。
「えっと……ムルタ・アズラエル……さん?」
 他にも何人か……とキラが何気なく付け加えたときだ。
「バルトフェルド隊長!」
 ラクスの鋭い声がブリッジ内に響き渡る。
「わかってます。ドミニオンの追撃、及び、威嚇、ですな」
 にやり、と笑いながら、バルトフェルドは頷く。そして、そのまま周囲に指示を出し始めた。
 いや、彼らだけではない。アスラン達もまた動き始めている。
「どう、したの?」
 キラ一人だけが、その理由がわからずに呆然としていた。
 それでも、周囲がせわしなく動いている中で、自分一人だけ何もしていないのは落ち着かない。
 仕方がなく、手の中のアルバムを開いた。
 そこには金髪の、何処か世の中を舐めまくっているような笑みを浮かべた男性がポーズを決めてこちらを見つめている。
「……本当、気に入らない男よね」
 ただ一人、キラの側に残っていたアイシャがこう呟く。
「こんな男に、大切なキラちゃんを渡せないわ!」
 次の瞬間、ブリッジ内を同意の声が包み込む。
「だから、どうしたって言うんですか!」
 その中で、キラの声だけが不協和音を奏でていた。

「さて……あれで、彼がこちらに来てくれればいいのですけどね」
 何処か愉しげな口調でアズラエルがこう呟く。
 その彼の言葉を耳にしたバジルールは思い切りため息をついてしまう。
「いっそ、一生、子供のままでいてくれれば、世の中平和で良かったものを……」
 いや、いっそ、プラントの厄介な連中も含めて、両軍の上層部が子供になってしまえば、この戦争はあっさりと終わるのかもしれない。そうも思ってしまう。
「……なぁなぁ。今度出撃したら、あれ、持って帰ってきてもいいか?」
「三人であれば、十分可能だよな」
「……それ、賛成」
「そんなことを言ったって、あんた達なんて、あっさりと撃墜されちゃうんだから!」
 アズラエルとバジルールを挟んで反対側ではこんな会話が繰り広げられている。
 それを耳にしながらも、バジルールは本気であちらに逃げたいとため息をついてしまった。


ちゃんちゃん
04.09.26 up



と言うわけで、久々のこれです。
何を考えているんでしょうね、アズラエル様……