変態仮面登場「……何でお前がストライクと一緒にいる!」 顔を合わせた瞬間、イザークがこう叫ぶ。 「なんで、と言われてもだなぁ……俺としてもあれこれ複雑な事情があるんだよ」 そんな彼に、ディアッカが言葉を返す。 「それにな……あれのパイロット、ニコルだぞ」 ニヤリと笑いながら、ディアッカはさらに付け加えた。 「……ニコル? あいつは……」 死んだはずだ、とイザークは呟くように口にする。あの状況で生きているわけがないと。 「それが、生きていたんだよ……ストライクの当時のパイロットがあいつが助けたんだと」 その後は、オーブにいたんだとさ、と付け加えるディアッカに、イザークは眉を寄せた。 「生きていたのなら……何で戻ってこなかったんだ?」 あいつは……と衝撃がまだ完全に抜けていないとわかる口調でイザークが口にする。 「怪我の治療と……他にもあれこれあったらしいが……一番でかい理由はあれだろうな」 そんなイザークに向けて、ディアッカがにやっと笑いかける。 「もったいぶるんじゃない!」 答えを知っているならさっさと白状をしろ、とイザークはディアッカを睨み付けた。それは、彼らにとって見れば日常だったことだ。 「お前がパソコンの中に大切にしているデーターがあるよな?」 だが、ディアッカはそんなイザークをさらに焦らそうとするかのようにこういう。 「って、あれか? あのフォロマスコット」 プラント内で密かにはやっている出所不明のそれが、イザークもかなりお気に入りだった。それに関してはもう否定する気はない。 「それがどうかしたのか?」 訳がわからない、と言うように、イザークは目を眇める。 「それのモデルがな……乗ってたんだよ、足つきに」 「へっ?」 ディアッカの言葉に、イザークは思わず変な声を出してしまう。 「本当か!」 だとしたら、自分も見たい……と彼の顔が告げている。その事実に満足そうな笑みを浮かべると、ディアッカはさらに衝撃の事実を口にし始めた。 「しかも、そいつは第一世代のコーディネーターでフリーダムのパイロットだ」 「まさか!」 即座に返されるこの言葉に本当に笑うしかない、とディアッカは内心ほくそ笑む。 「で、ニコルが乗るまでは、そいつがストライクのパイロットだった、と」 ディアッカがこういった瞬間、イザークは見事なまでに固まってしまう。 「極めつけに笑えるのは、そいつ――キラと、アスランが幼なじみだったって事実だよな」 さらに追い打ちをかけるように告げられた言葉に、イザークはとうとう氷点下を通り越して沸騰してしまう。 「そんなセリフ、信じられるかぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」 虚しい叫びが周囲にこだましていた。 一方、クルーゼを追いかけて廃墟へと入り込んだフラガを心配したキラと、そんなキラから離れる気などさらさら無いニコルが、放置された通路を歩いていた。 「……何かの、施設の跡、かな?」 周囲を見回しながら、キラが小さな声で呟く。その手には武器らしきものはない。その代わりというように、ニコルから渡されたライトがあった。 「見たいですね。そう言えば、ここは昔、遺伝子の研究が行われていた場所だったと記憶しています」 逆にニコルの手には銃が握られている。 他人を傷つけたくない、と言うキラにそのようなものを持たせるのは、誰も良しとしなかったのだ。そして、その代わりに自分たちがいるのだ、とニコルは認識している。第一、キラの射撃の腕前は、はっきり言って最悪に近い。下手をしたら、自分を撃つのではないか、と思うほどだ。どうしてMSではあれだけ正確な照準をつけられるのか、と誰もが不思議に思うほどだった。 「……そう、なんだ……」 キラがこう呟いたときだ。 彼らの耳に銃声が届く。 「ムウさん?」 「キラさん、僕の後に付いてきてください!」 こう口にすると、ニコルがまず駆け出す。その後をキラが付いてくる。 いくつかの入口を抜け、彼らは吹き抜けになったホールへとたどり着いた。そうすれば、上の方からフラガの声が二人の耳に届く。 「ムウさん!」 その瞬間、キラが叫ぶ。 「キラ! なんで……」 来たんだ、とフラガの声が戻ってくる。 「これはこれは、キラ・ヤマト君。君も来ていたとは」 そして、聞き覚えのない声が戻ってきた。 「……まさか……」 ニコルが眉を寄せながら呟く。 「知っている人?」 キラがそんな彼の様子に不審そうに問いかけてくる。そもそも、ザフトの面々の中で、自分を知っている人間はパトリックぐらいだと思っていたのだ、彼は。他の者は皆こちらに与しているはず。 「……ラウ・ル・クルーゼ……僕たちの隊長だった人ですが……」 何故彼が『キラ』が来たという事実を喜んでいるのか。 「キラさんのお名前は、アスランから聞いた、と言う可能性がありますし……知っていてもおかしくはないと思うのですが」 だからといって、何で……とニコルは眉を寄せる。 「ともかく、気をつけてください、キラさん」 「わかっているけど……ムウさんが……」 「大丈夫です。何があっても僕がフォローしますから」 ニコルが微笑みを浮かべれば、キラはほっとしたような表情を作った。そして、そのまま二人はフラガを捜すために移動していったのだか。 「……本当に……歓迎すると言っているのに、何で撃ってくるんでしょうね、あの人も……」 間違って当たってしまったらどうする気なんでしょうか、とニコルがあきれたように口にする。だが、キラにはその声が届いていないらしい。 「これって……血、だよね」 床に落ちていたものから視線を離さずにキラが言葉を口にした。 「ですね」 それに、ニコルの視線も厳しくなる。 「……まさか……」 フラガに何かあったのか、とキラは不安そうな表情を作った。 「大丈夫ですよ、キラさん。あの方がそう簡単にやられるわけがありません」 相手が誰であろうと、彼なら必ず生きて戻ってくるはずだ、とニコルは力説をする。 「……でも……」 それでもまだ不安を消すことができないのだろう。キラが周囲に視線をさまよわせながら言葉を口にしようとした。 「それに、もし万が一のことがあるなら、あの人のことです。ここいら辺にムウさんの遺体ぐらい放り出しますって」 そのくらいいい性格をしているのだ、とニコルは笑う。それに、銃声が二種類聞こえるから、と言うこちらの言葉に、キラはほっとしたような表情を作った。 「でも、急ぎましょうか」 フラガの銃の残弾数が心配だ、とニコルは口にする。それに、クルーゼが一人だとは限らないだろうとも。 「そうだね」 言葉と共にキラが駆け出してしまった。 「キラさん!」 一瞬遅れてニコルも駆け出す。 本気で走っているのだろう。いつまで経ってニコルはキラに追いつくことができない。その事実がニコルに焦りを生じさせていた。 「ムウさん!」 どうやら、キラが彼を見つけたらしい。その足が止まる。 だが、次の瞬間、飛んできた銃弾を避けるかのように体を移動させた。そして、そのまま、室内へと身を滑り込ませていく。 「馬鹿!」 その次の瞬間、フラガの声が響いてきた。 「キラさんは、ムウさんの所……と言うことは、大丈夫ですね」 では、いざというときにフォローできるようにしておいた方がいいだろうか。クルーゼが何を目的にしているのかわからないのだから……とニコルは思う。 「ようこそ、キラ君。初めて顔を合わせるが、噂だけはよく聞いていたよ」 どこか嘲笑を滲ませているようにも聞こえる声。 「あいつの話に耳を貸すんじゃねぇ!」 そんな彼の言葉を遮るかのようにフラガが叫ぶ。だが、それで諦めるような元上司でないことはニコルがよく知っている。そして、実際にそうだった。 「本当に可愛らしいのだな、君は」 一体何を言いたいのか、とこのセリフを耳にした瞬間ニコルは思う。 「しかし、今身にまとっている色は君には似合わないね」 だんだん話がおかしな方向へ進んでいるような気がするのは、ニコルだけではあるまい。 「あ、あの……」 「……だから、耳を貸さなくてもかまわないって……」 フラガの声の様子から、彼はどうやら無事だと言うことがわかった。なら、キラがほっとしているだろうと思いながらも、ニコルは気配を消しながら入口へと歩み寄っていく。 「やはり、君にはザフトの『紅』が似合うと思うが? あの時、監視カメラに写っていた君は本当にすばらしかった。さすがは、最高のコーディネーターだ」 この言葉に、キラ達が息を飲んだ気配が伝わってくる。 「……一体何を、おっしゃりたいんですか?」 「君が、特別な計算と共に作られた『コーディネーター』だと言うことだよ」 ある者たちによってね、とクルーゼは付け加えた。 「たわごとだ! 聞くんじゃない!」 フラガが叫ぶ。 「実際、君の魅力に大勢の者たちが掴まっているだろう? それもまた、最初から計算されていた、と思わないのかな?」 そして、それを有効に使えない者達と一緒にいることなど、無駄だとは思わないか、とクルーゼが付け加える。 「だから、なんだ、と言うんですか!」 あなたにそんなことを言われるいわれはない、とキラはクルーゼに言い返した。 「いや、大ありだよ」 折角の才能を生かし切れていないではないか、とクルーゼがさらに言葉を重ねてくる。 「キラ! その馬鹿の話を聞くんじゃねぇ!」 そいつはただの変態だ、とフラガがキラを制していた。 「お前はうるさいな」 やはりとどめを刺しておくべきだったか……と言う言葉と共に銃声が響き渡る。と言うことは彼がフラガめがけて銃を撃ったと言うことだろう。 「変態を変態といって何が悪い! キラの声を聞いた瞬間、ろくでもないことを考えた挙句、鼻血を出したのは、どこのどいつだ!」 それに応戦をしながら、フラガが叫び返している。 「……あ、あの……」 そのセリフの内容が信じられないのだろう。キラがどうしていいのかわからないという口調で言葉を告げている。 だが、ニコルには先ほどの血痕の正体がわかったような気がする。 「……変態だ、とは思っていましたが……ここまでだったとは……」 元とは言え、こんなのを『隊長』と呼んでいたのか、と思えば涙が出てくる、とニコルはため息をついた。バルトフェルド達を見ていれば、余計に、だ。 「この場合、やはり息の根を止めて、あの男の存在をなかったものにした方がいいのでしょうかね」 それでもためらうのは、個人的に知っているからなのだろうか。 「君には、ザフトの紅が似合うよ。それ以上に似合いそうなのは……」 そのためらいも、次の瞬間、綺麗さっぱり消え失せたのは言うまでもないだろう。 「……なんだよ、それ……」 ニコルから話を聞いた瞬間、カガリの声がオクターブ低くなる。 「あんな人を尊敬していた、なんてな……我ながら情けない」 アスランが遠い目をしながらこう呟く。 「許せませんわね。キラ様をそんな対象としてみていたなんて……」 ふつふつとラクスが怒りをたぎらせていく。 「そうよね。まだ脳内で妄想しているだけなら我慢してあげるけど、それを本人に告げるのは最低よね」 おかげで、キラは……とアイシャも壮絶な笑みを浮かべていた。その表情にエターナルのブリッジにおびえが走るほどだ。 「やはり、あの男は一度徹底的に叩く必要があるな」 バルトフェルドはバルトフェルドで、そんなアイシャをたしなめるどころか、獰猛な笑みを浮かべながらこう口にする。 「……しかし、あいつも可哀相に……やっぱ、キラに頼んでこっちに引き込んで貰えばよかったかな?」 イザーク……と周囲とは微妙な意見を持っているのはディアッカだった。 それでも、彼らが出した結論は同じ。いや、この場にはいないがフラガも同じ考えなのではないだろうか――彼は今、フリーダムのブリッジで泣いているオコサマを説得している。なので、こちらにはニコルだけが来ている、と言うわけだ―― 「ともかく、あいつに後悔をして貰おうじゃないか!」 力説するカガリに、全員が大きく頷いていた。 「……僕、僕……」 「だから、あいつは昔から変態なんだって! 誰もがあれを見てんな事考えるなんて思うな! って言うか、普通は考えない!」 可愛いのを見てなごむだけだ! と叫ぶフラガの背後で、珍しくもエターナルへと足を運んできたアークエンジェルのクルー達が大きく首を縦に振って見せている。 「そうよ、キラ! そう言う変態さんには近づかなければいいのよ! ディアッカが何とかしてくれるわ」 「って言うか、あいつに相手をさせればいいだけだよ」 ミリアリアを挟んで三角関係……というわりには仲がいいらしいトールがこう言う。 「そうだよ! アスランさんもニコルさんもいるんだし、キラがそんな変態の相手をする必要はないんだろう?」 サイも大きく頷いている。 「……でも、やっぱ、嫌なんだってばぁ!」 だが、キラはまだ当分そこから出てくる様子を見せない。 「大丈夫よ、キラ君。そう言う変態はこの世界には不要! 見かけた瞬間、ローエングリンをお見舞いしてあげるから」 ラミアスも優しい微笑みとは裏腹なセリフを口にしてきた。どうやらそれで納得したのだろうか。フリーダムのハッチが開く。 「……僕……好きでもない人にエッチな妄想されるの嫌です〜〜〜」 同時に、周囲に彼の叫びが響き渡る。その瞬間、ブリッジ以外のメンバーにも『クルーゼ許すまじ』と言う考えが広まったのは事実だった。 こうして、クルーゼの未来は決まったのだった。 ちゃんちゃん
03.10.23 up クルーゼさん、好きなんですけどねぇ……この後の展開を考えると、ついつい(^_^; |