騒動


 何か股間のあたりが濡れているような気がする……
 その気持ち悪さで悟空は目を覚ました。
「……おねしょ?」
 いくら何でも、六年生になってまで……と悟空は慌てて自分の股間を覗き込む。しかし、そこからはおねしょ独特の香りはしてこない。よくよく観察をすれば、シーツにも地図が描かれていないようだ。
 これは、違う何かなのだろうか。
 悟空は悩んでしまう。
「……ともかく、ばれるとまずいよな……」
 上に過がつく保護者達にこんな事がばれたら、あれこれ言われるに決まっている。場合によってはものすごい心配をかけてしまうだろう。ただでさえあれこれ迷惑をかけている――と言っても、年齢を考えれば仕方がないことがほとんどなのだが――自覚がある悟空にしてみれば、できるだけ避けたい事態である。
「適当に洗って洗濯機の中に放り込んでおけば、大丈夫かな」
 まだ八戒が洗濯機を回すまでには時間があるし……と時計を見ながら判断をすると布団から抜け出す。替えのパンツを用意して、悟空は足音を忍ばせて風呂場へと向かった。
 その途中でこっそりと他の部屋の様子をうかがえば、八戒はまだ眠っているようだ。悟浄は……というと、いつものごとく朝帰りらしい。
 こうなると、用心しなければならないのは三蔵と光明と言うことになる。
 二人が勤行のために本堂にいる間がチャンスだろうと悟空は歩を早めた。
 運がいいことに、風呂場にたどり着くまで誰にも会わずにすんだ。
「……音は立てない方がいいんだよな……」
 ここまで静かなら、かえって目立ってしまう。八戒が朝食の準備をしていれば、あるいはその音に紛れてしまったかもしれないと今更ながら思ってしまった。だからといって、八戒を起こすわけにはいかないだろう。
 悟浄がいつ帰ってくるかわからないから、風呂の湯は夕方までそのままなのだ。洗面器に残り湯をくんで洗えば音がしないだろうと考えると、悟空は即座に行動を起こす。
 ふたをずらすと、そうっと洗面器でお湯をすくう。それを床に置いてから、パジャマの下を下着ごと脱いだ。
 そのまま洗面器に突っ込もうとしたのだが、指先が濡れている場所に触れてしまう。
「何か、ねばねばしているや……」
 と言うことは、やっぱりおねしょじゃなかったんだ、と呟きながら、悟空は今度こそ下着を洗面器の中に押し込んだ。そして、音を立てないように慎重に洗い始める。
 後は絞るだけ……と言うところまでなったときだった。
 誰かの足音がゆっくりと近づいてくる。
(……この歩き方って……悟浄か?)
 はっきり言って、めちゃくちゃやばい、と悟空は焦り出す。他の三人なら笑って見逃してくれることも、悟浄となれば話は別だ。盛大にからかってくれることは目に見えている。
(何でこんな時に帰ってくんだよ!)
 しかも、風呂場は逃げ場がない。
 せめて洗濯をする前にパンツをはいておくんだった……と言っても後の祭りであろう。しかも、さらに運が悪いことに、パンツは脱衣所に置いてきてしまったのだ。
 いったいどうするべきか。
 悩んだところで解決策が見つかるわけもない。
 かといって、開き直ることも悟空には不可能だろう。
 そうしているうちに、悟浄のものらしきシルエットが脱衣所と風呂場を隔てる磨りガラスに映った。
「何だ? 誰か入ってんのか?」
 悟空が放り出していたパンツに気がついたのだろう。こんな声が聞こえてくる。
 それであきらめる気はないようだ。もちろん、ここで暮らしているのが全員男だというのがその理由なのは悟空にもわかる。だが、今だけは本気で遠慮して欲しいと思ってしまったとしても罪はないであろう。
 しかし、その願いは虚しく、ドアが開けられる。
「わぁぁっ!」
 思わず悟空は大声で叫んでしまう。
「……何なんだよ、馬鹿。男同士だろうが」
 あきれたようにこう言いながら、悟浄は掌で耳を押さえていた。まだ声変わり前野悟空の声が予想以上にこたえたらしい。あるいは、二日酔いなのかもしれない。
「って、お前、何やってんだ?」
 ようやく悟空の様子に気がついたのか。眼をすがめつつ、悟浄がこう問いかけてくる。
「うるさい! 何でもいいじゃねぇかよ!」
 反射的に悟空はこう言い返した。
「何だよ、かわいくねぇなぁ……お兄様に対する態度かよ、それが」
 むっとした表情で悟浄が悟空に歩み寄ってくる。どうやら、三蔵達に対する態度と自分に対する態度が違うことにかなりこだわっていたらしい。
「いっつも、適当なことばっかり言ってるくせに!」
 そんな悟浄に、悟空はこう言い返す。
「何回、俺のことだましたんだよ! 三蔵も八戒も、俺がわかんないことに関してはうそを教えないじゃん!」
 そして、間違ったことを信じている自分を脇から見て笑ってるだろうと悟空は付け加える。思い切り興奮しているせいだろう。既に声を潜めると言うことは彼の頭の中から吹き飛んでいた。
「こらこら、そうわめくな。三蔵達に俺の朝帰りがばれるだろうが」
 まだぎゃんぎゃん騒いでいる悟空の口を、悟浄は慌てて自分の掌で塞ぐ。
 悟空にしてもこの状態を誰かに見られたらまずいのは言うまでもない。だが、その考えすらも完全に彼の頭の中からは押し出されていた。悟浄に押さえつけられながらもじたばたと暴れている。
「……何してんだ、てめぇら……」
 そんな二人の耳に、思い切り不機嫌そうな三蔵の声が届く。
 反射的に、二人の体がその体勢のまま凍り付いた……だけならまだましだったかもしれない。
「悟浄! 女の人と遊ぶことに飽きたからと言って、義理の弟に手を出すって言うのは何なんですか!」
 しかし、八戒のこのセリフが二人の思考を無理矢理動かす。
 確かに、今の様子だけを見ていればそう取られても仕方がないかもしれない。
 悟浄は風呂にはいるために裸だし、悟空は悟空で下半身になにも身につけていないのだ。
「ち、ちがうって! マジ、誤解だ!!」
 先に我に返ったのは悟浄の方だった。慌てて八戒の言葉を否定する。しかし、三蔵達の疑いのまなざしは消えていない。
「……ともかく、服を着てください。朝食までにまだまだ時間はありますし……じっくりとお話をしましょう」
 冷たい視線を悟浄に向けながら、八戒は言葉を口にする。
 それを耳にしながら、三蔵はさっさと悟浄の腕の中から悟空を引っぺがした。
「その前に、それをしぼって洗濯機の中にいれて置いた方がいいかもしれませんねぇ」
 遅れてきたせいだろうか。
 それとも重ねてきた経験の差なのか。
 ただ一人状況を掴んだらしい光明が、いつもの穏やかな口調で悟空に言葉をかける。それにどこかほっとしたような気持ちを感じたのは悟空の気のせいであったろうか。
 しかし、それも本の一瞬のこと。
「悟浄はさっさとそれをしまってくださいね。いくら可愛い子供のものでも、そこまでなってしまったものは見たくありませんから」
 悟空ぐらいなら、まだほほえましいですけどね……と言われて、二人は慌てて自分の中心を掌で隠した。同時に、やはりこのメンバーの『父親』だと悟空は改めて認識を強めたのだった。

「だから、俺が帰ってきたときにはもう、悟空は下半身真っ裸で風呂場にいたんだよ」
 パンツをはいただけの状態でリビングに正座させたれた悟浄が、悟空に同意を求める。それに関しては嘘ではないので、悟空は素直に首を縦に振って見せた。
「……そう言えば、何かを洗濯していたようですけど……」
「おねしょでもしたんじゃねぇのか?」
 冷静になってようやく思い出せた……というように八戒がこう言えば、すかさず悟浄がつっこみを入れる。その瞬間、悟空が泣きそうな表情を作ったことに、三蔵はしっかりと気がついてしまった。
 当然のように、悟浄の頭に三蔵の拳が落ちる。
「何すんだよ!」
 当然のように悟浄が反論を口にした。
「貴方が余計な一言を口にしたのがいけないのですよ、この場合」
 即座に光明の注意が飛ぶ。これには悟浄だけではなく三蔵まで首をすくめてしまった。
「悟空、いったいどうして朝から洗濯を? いつもなら、洗濯機の中に放り込んで終わりにしていたでしょう?」
 そんな二人の様子に苦笑を浮かべると、光明は悟空へと矛先を向ける。
「……そうなんだけど……」
 悟空は困ったような表情で言葉を返す。
「パンツに何か付いてしまったんですね?」
 こういう事は早々に決着をつけてしまった方が後々のためだろう。そう判断をして、光明はずばっと問いかけた。
「……うん……」
 悟空は渋々といった様子で頷く。
「ちょっとねばねばしていたわけですね?」
 しかし、次に付け加えられた言葉には驚いたように大きく目を見開いた。
「何でわかったんだ?」
 そうして思わずこう聞き返してしまう。
「まぁ、みんな経験ありますからね」
 悟空の行動も理解できると頷きながら、光明は自分の息子達へと視線を流した。
「大人になれば普通のことだな」
「そうですよ。別段、病気でも恥ずかしいことでもありませんからね」
 三蔵と八戒は悟空を安心させようとすぐにこう口にする。実際、自分たちも朝起きて慌ててパンツを洗った経験があるのだ。
「教えておかなかった僕たちも悪いのですから」
 事前に説明をしておけば、こんな大騒ぎにならなかっただろうと八戒は続ける。
「だから、俺が悪いんじゃねぇって言っただろうが。と言うわけで、後で大人になった悟空ちゃんにいいことを教えて……」
 ニヤニヤと笑いながら悟浄がここまで口にした瞬間だった。三方からその頭めがけて拳が飛ぶ。
「ってぇ!」
 何で自分が三人から殴られなければならないのかわからないのだろう。悟浄はむっとしたような表情を作る。
「テメェを真似されると困るからな」
「下半身にだらしなくならなったらいけませんしね」
「貴方の場合は、まっとうな性教育の範囲を超えてしまいますでしょう? 本当にどうしてこうなったのか。私の育て方が悪かったのでしょうかねぇ」
 三人は口々にこう言った。その一言一言を耳にした瞬間、悟浄は思わずあらぬ方向へと視線を向けてしまう。どうやら、図星や思い当たる点が山ほどあるらしい。
「と言うわけで、てめぇはしばらく悟空の側に寄るな」
 少なくとも、正しい知識を教え終わるまでは……と付け加える三蔵の意見はある意味まっとうなものだったと言っていいだろう。
「さっさと風呂にはいるなら入ってきてください。その後で、あれこれお話し合いをしましょう。今回のことだけではなく、いろいろと言わなくてはいけないことがたまっていますから」
 どうせ、その様子では今日は自主休講でしょう? と付け加えつつ微笑む八戒の表情が思い切り怖く感じられたのは、悟空の気のせいであろうか。
「悟空も早く着替えてきなさい。いつまでもそんな格好をしていると風邪を引きますよ」
 光明の言葉が終わると同時に、三蔵が悟空の襟首を掴んで立ち上がらせる。そしてそのまま部屋まで引きずっていった。
「ったく……変な遠慮をするんじゃねぇ。今回は何でもなくてよかったが、これが病気だのなんだのだったらどうしたんだ? 何かあったらちゃんと相談しろ」
 それはこれが言いたかったかららしい。
「……だって……おねしょだと思ったんだもん……」
 そんなの知られたら恥ずかしいじゃないか、と悟空は慌ててごまかしにかかる。
「三蔵や八戒なら気にしないくれるだろうけど、悟浄にばれたらいつまでも馬鹿にされるじゃん」
 だから、内緒にしておきたかったのだ……と付け加えれば、三蔵も納得してくれたらしい。
「マジ、あのばかはいっぺん締めとかねぇといけねぇな」
 呟かれた言葉に、悟空は心の中で悟浄に手を合わせる。
「まぁいい。着替えたらさっさとリビングに行ってろ。資料を探して説明してやる」
 自分の部屋の前まできたところで、三蔵はようやく悟空を解放した。
「わかった」
 三蔵を待たせるわけにはいかない。そう判断すると、悟空はそのまま駆け足で自分の部屋へと飛び込んだ。そして寝る前に用意しておいた服を超特急で身につける。
 ランドセルと体操着の袋をひっつかむと、そのまま部屋を飛び出した。
 足音を響かせながら、リビングへと向かう。
「そんなに慌てなくても、遅刻はしませんよ」
 リビングでお茶をすすっていた光明が、そんな悟空の様子を見て苦笑混じりにこう声をかける。
「三蔵は?」
 まだ来ていないよね、と口にする悟空に、光明はだいたいの事情を察したらしい。
「戻ってきていませんよ。とりあえずお座りなさい。お茶を飲んで気持ちを落ち着かせないと、とんでもない失敗をしてしまいますから」
 年長者らしいそのセリフに、悟空は素直に頷く。そして、自分の定位置へと腰を下ろした。そんな彼のために、光明が手ずからお茶を淹れてやった。
「まぁ、今回のことは私達も悪かったのですけどね。貴方も、もう少し私たちを信用してくれてもよかったのではないですか?」
 それを手渡しつつ、光明がちくりととげを含んだセリフを口にする。
「……それ、三蔵にも言われた……」
 肩をすくめつつ、悟空はこう言い返す。
「悟浄にだけは知られたくなかったんだもん」
 悟空のこのセリフを耳にした瞬間、光明は視線の中のとげを外した。悟空のその主張を正当なものだと認めたのだ。
「そう言うことなら仕方がありませんね。まったく、あの子も困ったものです」
 どうしてあぁいう性格になってしまったのか……と光明はため息をつく。
「あいつは元々あんな性格でしたよ」
 そんな光明の耳に、三蔵の言葉が届く。
「今更。あの馬鹿を更正させられるかどうかというと、かなり疑問がありますね」
 来たときから、あんな性格だったと思いますが……と言いつつ、三蔵は悟空の隣に腰を下ろした。
「だから、お前もあの馬鹿の言うことは無視していいからな」
 そして、悟空に向かってこう念を押す。その言葉に対して、悟空にも異存はないのだろう。素直に首を縦に振って見せた。
「まぁ、正しい知識さえ持っていれば、あの馬鹿のうそもわかるんだろうが」
 そう言いながら、三蔵は部屋から抱えてきたらしい百科事典をテーブルの上に置く。そして、ページをめくりだした。
 やがて、目的のページが見つかったのだろう。三蔵が悟空に視線を向けた。
「詳しい説明は、帰ってきてから八戒にでも聞けばいい。ようするに、男の体には赤ん坊の元になるものを作る場所がある。体が大人になるとそれが働き出すわけだ。毎日作られるんだが、ためとく場所には限りがある。と言うわけで、古くなった分から体の外に排出される……っていうのが、今朝のお前の状況だ」
 わかったか……と言われて、悟空はとりあえず頷いてみせる。
「つまり、大人になるとどうしてもこうなるってことだよな」
 そして、理解できたことを口にした。
「その認識で間違いはないな、とりあえず」
 今それ以上説明をしても、悟空に理解できるだけの時間はないであろう。それよりも、誰でもそうなるのだという認識を与えただけでもいいことにしようと三蔵は考える。
「……でも、別に毎朝、パンツ洗ってねぇよな」
 どうやっているんだ、と無邪気な口調で問いかけられて、三蔵ばかりか光明まで複雑な表情を作ってしまう。
「それに関しては……後で教えてやるよ」
 今は無理だ……と苦し紛れに三蔵が言えば、悟空は納得したらしい。
「帰ってきてたらなら、教えてくれるんだよな」
 悟空はにこにこと笑いながら、言葉を口にする。それに困ったというように大人二人は顔を見合わせた。
「ご飯、できましたけど……」
 そこに八戒が顔を出す。
 リビング内に漂う複雑な空気を感じ取ったのだろう。彼は小首をかしげていた。
 だが、彼の登場にほっとした者たちもいたわけで……
 ついでに言えば、食べ盛りの悟空は『ご飯』の一言で目の前の厄介事はすべて一度棚上げにすることを決めたらしい。
「食べる! 俺、大盛りな」
 悟空の元気な声が周囲に響き渡った。

「……どうするのですか?」
 もうじき、悟空が帰ってくるという時間。八戒が三蔵に向かってこう問いかけてきた。もちろん、内容は朝の会話に関わってのことだ。
「どうするもこうするも……教えるしかねぇだろうが……」
 悟浄に聞きに行って、とんでもない知識を与えられては厄介だ……と三蔵は言外に付け加える。それに関しては八戒も――とっとと逃げ出してくれた光明も――賛成なのだ。
 問題は、誰がそれを教えるかだけなのである。
「僕は嫌ですからね」
 三蔵が口を開くよりも早く八戒がこう宣言をした。先手を打たれた形になった三蔵は、思い切り苦虫を噛み潰したような表情を作る。
 しかし、結論は一つしか残っていないであろう。
「……菩薩のババァの所に行かれても困るしな……仕方がねぇ。俺が教えればいいんだろう」
 面倒だが……と思うが、ろくでもない知識を仕入れられるよりはマシだ……と三蔵はため息をつく。
「お願いします。その前のことについては僕が責任を持ちますから」
 何なら、今日はお赤飯でも作りますか、ととんでもないセリフを口にする。
「悟空がそれをよろこぶかどうかだな」
 旨い食い物を食わせれば、間違いなくよろこぶだろうが、意味を知ったときもそうだとは限らない……と三蔵は言外に含ませた。
「腕によりをかければ大丈夫でしょう」
 最近、ますます料理の腕に自信を持っている八戒がにこやかに言葉を口にする。
「その時は、あの馬鹿の口をきちんと塞いでおけよ」
 それはかまわないが、別の問題もあるだろうと三蔵は言い返した。それが何を意味しているか、八戒にもしっかりと伝わったらしい。
「……わかりました。それに関してはしっかりと釘を刺しておきます」
 どうせ、これからあれこれ釘を刺す予定ですし……と言いながら笑う八戒の表情が非常に怖い。しかし、三蔵はそれを表情に出すことはなかった。
「あのばかに刺す釘は太い方がいいか……悟空が帰ってくるまでならつき合うぞ」
 すべてはあいつのせいだからな、というのは責任転嫁ではないだろうか。だが、彼らにしてみれば当然の事であるらしい。
「そうですね。一人よりは二人の方が効果がありますよね」
 八戒が明るく微笑み返す。
 その瞬間、ベッドで眠っているはずの悟浄が盛大に悪夢に襲われていたとかいないとか……

 夕食時、悟浄がやたらと疲れた表情をしていることに気がついた悟空は、思わず小首をかしげてしまう。
「……悟浄、またなんかみんなに怒られるようなこと、したのか?」
 そして、ズバリとこう切り出す。だが、それに悟浄は何も答えることができない。
 下手に『てめぇのせいだよ』などと言った瞬間、残りの二人から何を言われるかわかったものではないのだ。
(……俺だって、自分が可愛いんだよ)
 心の中で悟浄が呟いた声は、結局誰の耳にも届かなかった。

 翌日、悟空が知恵熱を出して学校を休むはめになったのは、また別の話である。


ちゃんちゃん