子供向けの映画……というのをチェックしてみたのだが、学校の長期休みの期間を外れるとなかなか見つからない。 「ったく……認識不足だったな……」 映画なんて、いつでもお子様向けのがあるものだと思っていた、と三蔵はため息をつく。 しかし、新聞の上映案内の欄に並んでいる題名は、どう考えても大人向け――と言うよりは悟空には見せるのをためらわれるような無いような物ばかりだ。 これが悟浄や八戒相手であれば、ちょうど良さそうなタイトルがかかるまで我慢しろと言えるであろう。だが、あれだけ楽しみにしている悟空に我慢しろと言うのはかわいそうだ。第一、悟空に自分が嘘をついたと思われるのは嫌である。 こうなったら、意地でも何かを見つけ出してやる……と心の中で呟きながら、三蔵はパソコンを立ち上げた。ネットで検索をかければ、あるいは見つかるかもしれないと思ったのだ。 その甲斐があったと言うべきであろうか。 三蔵は何とか目的の映画を見つけ出す。同時に、新たな問題が浮かび上がってしまったが…… 「どこだ、ここは……」 見つけた映画館がどこにあるのか。いったいどうやっていけばいいのか。それを新しく検索をしなければいけないという現実に、三蔵は思わずため息をついてしまう。 しかし、やり始めた以上、投げ出すわけにもいくまい。 テーブルの上に置かれたマルボロの箱からたばこを一本抜き取る。口にくわえて火をつけると、再びパソコンへと向き直った。 「……何で、そんなに、荷物いっぱいなんだ?」 朝食後の後かたづけを終えた瞬間、出かけると言われた悟空が目を丸くしている。 「それに、ずいぶんと早くから出かけるんですねぇ」 しっかりと一緒に出かける準備を終えた八戒も、不思議そうな表情を三蔵に向けていた。 「普通、映画は早くても10時ぐらいからなのではありませんか? 今日なんて、まだ悟浄も帰ってきていませんよ」 それはそれで別の意味で問題があるのではないだろうか。高校生の分際で朝帰りなど……と思うようなメンバーはこの中には――と言っても、悟空はまだ意味がわかっていないのだが――いない。 「……悟空に見せられるような内容の映画が掛かっている館が、遠くにしかなかったんだよ。嫌ならついてくるな」 三蔵はしっかりとこう言い返す。 「あぁ、そう言うことですか。では仕方がありませんね。悟空と一緒にピクニックに行くのも楽しそうですから、ちゃんとおつき合いさせて頂きます」 このセリフがどこか引っかかるような気がするのは気のせいであろうか。 しかし、それについて言及していると目的地にたどり着いたときには映画が終わっている可能性すら考えられる。 「……お前の分の飯は自腹だぞ」 入場券だけはおごってやる、と付け加えると、三蔵は悟空の手を取った。そしてそのまま歩き始める。 「それって、差別と言いませんか?」 ふたりの後を慌てて追いかけてきた八戒が、三蔵に向かってこう言ってきた。もちろん、その言葉の裏にはからかうような色が見える。 「てめぇはちゃんと小遣い貰ってるだろう。悟空は、父さんから小遣い、貰ってねぇんだよ。まぁ、今日の分はいくらかカンパして貰ってきたがな」 だから心配しなくていいぞ、と三蔵は自分を見上げている悟空に告げた。 その言葉を耳にして、悟空は小首をかしげる。どうやら彼の心配事はそれだけではなかったようだ。 「……八戒の分、どうして出してやらねぇんだ?」 安いとこでもいいから……と悟空が付け加えれば、 「それじゃおいしくないでしょう? それに、僕は無駄遣いしていませんから、自分の分ぐらい出せますって」 どうせお出かけをするならおいしいものを食べましょう……と八戒が言い返す。でなければ、食べずに帰った方がマシ……というのが彼の主張らしい。もっとも、それを成長期の悟空に押しつける気はないようだ。 「そう言うことだそうだ。でないと、喰わずに帰るなんてマネもしかねないし」 それじゃ、お前が困るだろうと言われて、悟空は素直に首を縦に振る。 「と言うことで、この話は終わりだ。さくさく行かないと、映画を見ないで帰ってくるはめになるからな。疲れたらさっさと言えよ」 具合が悪くなった時もだぞ……と付け加えたのは、これから人が多い場所に行くからだった。悟空の場合、調子がいいときにはそうでもないのだが、不調の場合は如実にあの症状が出てしまう。ならば、不調にさせない方がいいだろうという三蔵の判断からだった。 最近は、あまり三蔵に負担をかけたくないと言う思いが芽生えてきたのだろう。悟空はぎりぎりまで我慢してしまうようになっていた。それの先手を打っておこうという気持ちもあることは否定しない。 「……わかった……」 悟空はどこか渋々といった様子で答えを返す。 「悟空、倒れられる方が後々大変なんですから、ね」 三蔵のフォローをするかのように八戒が口を開いた。こうやってきちんと説明をしてやれば悟空は納得してくれるのだ……と言うことを知っていての行動である。 「……そう言うもんなのか?」 初めて知ったというように悟空は目を丸くした。その表情のまま確認を求めるように三蔵へと視線を移す。 (ったく……) いったいどちらの反応が腹立たしいのか。三蔵自身よくわからない。それでも、悟空に頷き返してやった。 「じゃ、気をつける」 その三蔵の反応を見て、悟空はきっぱりと言い切る。 「ひどいですね。僕の言葉だけじゃ信用できなかったのですか?」 八戒の言葉に思わず頷き返した悟空を見て、不機嫌が少しマシになったのは三蔵の気のせいであったろうか。 さすがに乗り換えも三回を超えたところで悟空は疲れたようなそぶりを見せ始める。 いったい、いつ、そのことを自己申告してくるだろうか、と三蔵が思ったときだった。 「……三蔵……」 悟空が三蔵のシャツの裾を引っ張りながら小さな声で彼の名を呼ぶ。 「どうした?」 こう言いながら視線を向ければ、 「……俺、疲れた……」 さらに小さな声でこう申告をしてくる。約束はしたものの、まだその事実を告げるということに抵抗があるらしいと言うことが、その態度からしっかりと伝わってきた。 「わかった。八戒、荷物を頼む」 約束を守ったことをほめてやるように悟空の頭を撫でながら三蔵は八戒に声をかける。 「はいはい」 その言葉の意図をするところを正確に受け止めて、八戒は頷く。そして、彼の手から荷物を受け取った。 「悟空」 身軽になった三蔵は、悟空に背を向けて身をかがめる。その背中に悟空は素直に自分の体を預けた。 「……少し重くなったか?」 まだまだ同じ年齢の子供と比べると小柄だとしか言えない悟空だが、背負った瞬間、前よりも体重を感じられる。それに気づいた三蔵は思わずこう口にしてしまった。 「そうですね。家にきた頃よりは3キロほど重くなったと思いますよ」 でも、もう少し増えた方がいいのでしょうが……と八戒がフォローの言葉を口にする。彼のことだ。ひょっとしたら、悟空の成長記録をどこかにメモしているのだろう。 (こいつならやりかねねぇな) 三蔵は心の中でこう呟く。ついでに言えば、それを命じたのは間違いなく光明であろう。自分でやらずに八戒に頼んだのは、最近寺を空けることが多くなってきたからだろうと言うことも、簡単に想像できる。 「もうじき、おんぶも難しくなるか」 それはそれで喜ばしいはずなのに、どこか残念だと思うのはどうしてなのか、三蔵自身わからなかった。 「……それ、やだな……」 三蔵がその理由を問いつめようとする前に、悟空のこのセリフが耳に届く。 「仕方がありませんよ。大きくならない訳にはいきませんでしょう? それに大丈夫ですよ。甘える方法は他にいくらでもありますから」 三蔵だって、そのくらいは大目に見てくれますよ……と付け加える八戒に、三蔵はあきれてしまう。だが、悟空から甘えられれば、まだ当分の間は、おそらく多少のことは目をつぶるのではないか、とも思ってしまう。 「お前や悟浄なら、即座にぶん殴るがな」 八戒の言葉を肯定するように三蔵はこう口にした。そして、そのまま歩き始める。もっとも、八戒も遅れるようなマネはしない。 「……それって、差別と言いませんか?」 苦笑を浮かべつつ三蔵の隣に並んだ八戒が言い返してくる。 「自分たちの年を考えろ。甘えられて可愛いと思えるか?」 特に悟浄は……と付け加えなくても八戒にはしっかりと伝わったらしい。別段ショックを受けた様子も見せずに笑っている。 「……そうなの?」 ただ、悟空にはどうも伝わらなかった……と言うより想像できなかったらしい。三蔵の背中でひたすら疑問符をまき散らしていた。 「そうですよ。誰だって、かわいげがない相手に甘えられたって、何か下心があるのではないかと思ってしまいますよ」 そんな説明では悟空の混乱に拍車をかけるだけではないだろうか……と三蔵は一瞬考えてしまう。だが、それも八戒の作戦なのかもしれないと、黙っていることにした。 「下心?」 それって、何? と悟空はまた首をひねっている。 「ようするに、あれをおごって欲しいとか、宿題を代わりにやってくれないかな……と自分に都合がいいことを考えていると言うことですよ」 それって、全部悟浄のことじゃないか……と三蔵は思わず吹き出しそうになってしまった。自分のことは例に出さないあたり、さすがだとしか言いようがない。 「……って、悟浄のこと?」 これに関しては悟空もわかったらしい。それを真っ正面から聞き返すのは、悟空がまだお子様だからだろうか。 「そうですよ。全部、悟浄がやったことです」 他意がないとわかっているせいか、八戒の応対も優しいものだ。 「だから、悟空はそんなこと、まねしないでくださいね」 と言っても、悟空は性格的に無理だろうとは思う。ついでに、悟浄の影響を受けないようにしっかりと監視していればいいだけのことか……と三蔵は心の中で呟く。それは、八戒や光明も同じ思いだったろう。 「わかった。俺、変な大人にならないように気をつける」 それでいいんだよな、と付け加える悟空の声に、三蔵は知らず知らずのうちに微笑んでいた。 普段とはまったく視界が違うからだろうか。 三蔵の背中の上で悟空があちらこちらを興味深そうに見回している様子が伝わってくる。 「おとなしくしてろ。でねぇと落っことすぞ」 そんな悟空に少々あきれつつ、三蔵はこう声をかけた。 「だって、こんな風に見えるなんて思ったことねぇんだもん」 いっつも、目の前が人の壁でよく見えないし……と悟空は付け加える。 「仕方がないですね。悟空はまだ小さいんですから」 大きくなったら、いつでもそんな風に見えますよ……と口にしながらも、八戒は悟空がそれほど大きくなるとは思っていない。彼の今までの生育歴からすれば、大きくなれないようその方が大きいのだ。しかし、それを口に出さないのは八戒なりの優しさであろう。 「それに、こんな風におんぶをして貰ったことも初めてですよね?」 八戒の言葉に、悟空は首を横に振って見せた。 「んっと、金蝉と天ちゃんにはおんぶして貰ったことあるぞ。でも、外につれてって貰ったことはねぇけどさ」 だから、こんなにたくさんの人の頭を上から見下ろしたのは初めてだ……と付け加えた悟空の視線がある一点で止まる。 「どうかしましたか?」 「……あそこにさ、悟浄によく似た色の髪の人がいるんだけど……」 まさか本人じゃないよね……と悟空は首をかしげて見せた。三蔵と八戒も思わずソン お方向へと視線を向ける。 確かに、人混みの中に真紅の髪が見え隠れしている。その色の髪をしている人間を、二人とも一人しか知らない。 「……悟浄のやつ、いったいどこに行くって言ってたんだ?」 情報を持っていない三蔵は、思わず知っていそうな相手に問いかける。 「……確か、友達とどこかのライブハウスに行くとは言っていましたけど……」 場所までは確認していなかったと八戒は呟く。 「……ともかく、見なかったことにするぞ……」 でないと、余計な出費をさせられる。それでは後々困る……と付け加えると三蔵はルートを変えることにした。 しかし、そうはいかないのが世の中というものであろう。 「何だ? 三人そろってどこ行くんだよ」 変えたはずのルートでしっかりと悟浄と対面してしまったのだ。 「テメェにゃ関係ねぇよ」 三蔵はこの一言を残してさっさと行きすぎようとする。八戒も同じ行動を取ろうとした。 実際、彼らが乗る予定の電車は既に入り口を開けて待っているのだ。これを逃すと後々時間的に厳しいことになるかもしれない。 「なんだよ。俺だけ仲間はずれか?」 もちろんというかなんというか。悟浄は早々にあきらめるつもりはないようだ。しっかりと彼らの行く手を遮ってくる。 「あの電車に乗り遅れたら、お前が責任を取ってくれるんだろうな」 それをやめさせようと三蔵は口を開く。 「三人分の交通費と飯代、テメェに出せるのか?」 ならかまわないが、と言いきる言葉の裏には、悟浄にそんな余裕がないことを知っていてのセリフだ。実際、悟浄が八戒にかなり借金があるというのは公然の秘密である。 「……三人分……」 それっていくらだ、と悟浄が呟いた瞬間、悟空を背負った三蔵と荷物を抱えた八戒は猛然とダッシュをした。そして、今にも閉まろうとしている電車のドアをくぐる。 「あ〜〜〜っ!」 悟浄が慌てて追いかけてきたが、無情にも彼の目前でドアが閉まってしまった。その上、しっかりと駅員の注意までが悟浄の上に飛んでくる。 「後で覚えてろよぉ!」 さすがに無理矢理乗り込むことは無理だと判断したらしい。悟浄はあきらめたというように叫んだ。 「……何を覚えていろって言うんだよ」 三蔵はあきれたようにこう言いながら、背中から悟空を下ろす。 「元はと言えば、夕べ帰ってこないあいつが悪いんだろうが」 帰ってきていたなら、誘うぐらいはしてやったと三蔵は付け加える。そのセリフは主に悟空に向けられたものだった。でなければ、きっと『悟浄が可愛そう』と言い出すことが眼に見ていた。 「悟空、空いている席に座ってしまいましょう。ね」 少し、三蔵を休ませてあげないと……と言うことで、八戒は悟空のその後のセリフを封じてしまう。 「……三蔵、疲れたのか? 俺のせいで……」 慌てたように悟空がこう問いかけてくる。 「気にするんじゃねぇ」 こう答えながら、三蔵は八戒に余計なセリフを言うなと視線で注意をした。しかし、同時にこれが一番有効な手段であることも認識している。ただ、悟空の場合、あまり度を過ぎるととんでもないことになってしまうという問題があるのだ。 それを八戒も思い出したのであろう。素直に謝罪の意を示す。 「まぁ、座れるときに座った方がいいって言うのには賛成だがな」 言葉と共に、三蔵は先頭に立って空いている席へと腰を下ろした。その隣に当然のように悟空が座る。その席がシートの端であったのは最初から三蔵が計算していたことであろう。 「八戒?」 しかし、八戒は席に座らず、悟空をドアから隠すように手すりの脇へと立っている。その彼の行動に、悟空は驚いたような視線を向けた。 「座ると寝てしまいそうなのですよ。そうなった場合、間違いなく三蔵に見捨てられてしまいますからね」 立っていた方がいいのだ、と八戒は笑いながら付け加える。 「……んなで、付いてきて貰ってよかったのか?」 別の意味で心配そうに悟空はこう問いかけた。 考えてみれば、彼は受験勉強の他に家事のほとんどをになっているのだ。疲れたが待っていてもおかしくないだろう。 「大丈夫ですよ。このくらい。三蔵も大学に入学する前は似たようなものでしたし……悟空がお手伝いをしてくれるので、むしろ最近は楽になっていますしね」 食事の後始末だけではなく、洗濯もできるようになった彼のおかげで、かなり自由時間が増えているのだ、と八戒は微笑みながら告げる。 「……てぇと、マジで使えねぇのは悟浄だけってことじゃねぇか」 おいてきて正解だったな、と三蔵が呟く。 「そう言うことになりますねぇ」 フォロ−のしようがないと、八戒も苦笑を浮かべる。 「だから、お義父さんに何を言われてもこちらに分ががあるとは思いますが……早めに根回しをしておいた方がいいでしょうか」 メールぐらいなら車内で使ってもかまわないでしょうし……と八戒は三蔵に問いかけた。 「そこまでしなくてもかまわないだろう。後で三人がかりで説明をすればいいだけだ」 信頼度はこちらの方が上だろうと三蔵は唇の端を持ち上げる。 「ですね」 八戒もそれに答えるかのようにほくそ笑んでいる。本当にそれでいいのか、と言うように悟空は眼を白黒させていた。 「たまにはがつんとお灸を据えるのも、あいつのためだしな」 「そうですね。いい加減最年少というわけではないのですから、生活態度を改めて貰うことも必要でしょうし」 三蔵と八戒が顔を見合わせると頷きあう。 二人がそう言うのであれば、そうなのかもしれない……と悟空は納得してしまった。彼の中でも三蔵達二人と悟浄に対する信頼度の差が明確に存在しているのだ。 「さて、乗り換えは今度で終わりだから……後は映画館に行くだけだ。具合の方は大丈夫だな?」 話題を変えるように三蔵はこう問いかけてくる。それに悟空は元気よく頷いて見せた。 映画の中身は子供向けと銘打たれてはいたが、三蔵や八戒でもそれなりに楽しめるものだった。 それ以上に悟空はうれしかったのだろう。三蔵にパンフレットを強請ってくる。もちろん、そのくらいはあらかじめ予算を取ってあったから、三蔵は二つ返事で買ってやった。 「ありがとう」 悟空が本当にうれしそうに三蔵を見上げてくる。 「こう言うところが可愛いのですよね、悟空は」 ちょっとしたことでもうれしそうに笑ってくれる様子は、八戒でなくても可愛いと思ってしまう。実際、三蔵ですらもっと他の物も買ってやろうかとすら思ってしまったほどだ。しかし、それを思いとどまると、 「飯を食ってから帰るか」 買い物をしていけば丁度いい時間だろうと口にする。 「ですね」 楽しそうにしているものの、悟空はかなり疲れているらしい。そう判断した八戒は、三蔵の意見に賛同をした。 「ここですと、駅の裏においしいと噂の店があるので、行ってみませんか?」 そしてこう提案をする。 「その辺については任せる。お前の舌は信用できるからな」 「お褒め頂いてあるがとうございます。悟空もかまいませんか?」 八戒に聞かれて、悟空は頷く。 「おいしいもん、好き」 付け加える悟空の頭の中は、もう何を食べさせてもらえるのか……と言うことでいっぱいになってしまう。 「じゃ、行きましょう。いつまでもここに立っていると、他の方の迷惑になりますしね」 そう言うと、八戒が先頭になって歩き出した。その後を三蔵と悟空がついて行く。 しかし、彼らの足取りは映画館の入口を出たところで止まってしまう。 「……ここまで行くと根性ですね……」 そこには追いかけてきたらしい悟浄がいたのだ。ぐったりとしながらも、彼らを見つけて手を挙げてみせる彼の姿に感心をすべきか、あきれるべきか、三人は悩んでしまう。 「……ともかく、あきらめるしかねぇだろうな……」 三蔵はため息と共にこう吐き出す。そして、悟浄に向かって手招きをした……
悟空が書いた日記を見て、光明は穏やかに微笑んでみせる。 「次は、私もつき合いましょうか。昔見た記憶もありますし……」 こう言いながら、彼は悟空の字の下にさらさらとコメントを書き込んだのだった。 終
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