年に一度の我が子の晴れ姿を見ようと思ってのことなのか。 それとも、来年受験させるための下見をしようと思ってのことなのか。 初等部の学芸会だというのに、校内は大人でごった返していた。 「……悟空……離れるんじゃねぇぞ」 下手に離れたら、間違いなく迷子になるだろう。それでなくても、悟空はこの人混みに少々顔色が悪い。自分たちが側にいなくなったら、間違いなくいつものあれが出てくるだろう。 (ったく……せっかくもう少しで直りそうだったってぇのに……) ようやく姿を現さなくなった烏哭だが、彼の存在が悟空に残した傷は大きすぎる。できることなら、いっそ、南極か北極にでも行って欲しいとまで思ってしまう三蔵だった。 「……三蔵、待って……」 そんなことを考えていたせいであろうか。三蔵は悟空のこの声に気づくのに遅れてしまった。 「悟空?」 慌てて周囲を見回したときには、もう既に悟空の姿は視界の中になかった。 「ちっ!」 注意だけではなくしっかりと手をつないでいるべきだった、と三蔵は自分のうかつさに舌打ちをする。そしてすぐにでもとって返そうとしたのだが、周囲の人の流れに逆らうことができない。 何とか流れを抜け出せたときにはもう、先ほどの場所からかなり離れてしまっていた。 「……どうするか……」 こう言うときに限って、他の二人はそうそうに行方不明になってくれているし、光明は光明で朱泱に拉致されてしまっている。助けを求めようにもやはり時間がかかってしまう。 「でも、しねぇよりはましか」 自分に言い聞かせるようにこうつぶやきながら、三蔵はポケットから携帯を取り出す。そして、即座に保護者へと連絡を入れる。校長室からならば、校内放送と言った対処を取って貰いやすいと思ったのだ。 三蔵からの連絡に、光明は即座に反応を返してくる。 「すみません。悟空とはぐれました……」 自分の日を伝える三蔵に、 『起こってしまったことは仕方がありませんね。大至急探してあげてください。私は、あの子が具合を悪くして保健室に運ばれていないか確認をしますから。あぁ、悟浄には連絡をしておきますからね』 八戒には貴方から連絡をしてください……と言う光明のセリフは、ひょっとしたら自分に対するペナルティなのだろうか、と三蔵はため息をつく。 この状況を知られたら、間違いなく辛辣なイヤミの一つや二つ、飛んでくるに決まっているのだ。 「……お願いします……」 だからといって、自分の失態をなかったことにできるわけでもない。第一、八戒のイヤミの方が光明からのそれに比べればマシだとも言えるのだ。三蔵はため息とともにこう吐き出した。 光明との通話を終わらせると、今度は八戒へと連絡を取る。そして、光明にしたのと同じ説明を口にした。 『だから、気をつけないと……と言ったじゃないですか』 予想通り、八戒のとげ混じりの声が三蔵の耳に届く。この後、さらに辛らつな言葉が続くだろうとまで覚悟をしていた。 『ともかく、悟空を急いで探さないと……また具合を悪くしていたり、心細い思いをしていたらかわいそうですものね』 しかし、八戒の口から出たのは、三蔵に対する罵詈雑言ではなく悟空に対するいたわりの言葉である。 『そうですね。今昇降口の所にいますから、僕はそちらに向かいます。三蔵は通った道を逆に向かってください。そうすれば、途中で落ち合えるでしょうし、うまくいけば、悟空を見つけられますよね』 しかも、落ち合うまでにじっくりと周囲を見回すことができるだろう。八戒は言外にそう伝えてきた。 「多分な」 三蔵は少しでも早く悟空を捜しに動きたいという口調で答えを返す。 『僕も探し始めますね』 それを察したらしい八戒が、こういうとともに通話を終わらせる。それを確認して、三蔵は携帯をしまいつつ動き始めた。 「……三蔵……」 人混みの中ではぐれてしまった三蔵の姿を悟空は慌てて探す。だが、大人に挟まれては、小柄な悟空の視界が開けるわけがない。 しかも、大人達の体の間で悟空は翻弄されてしまう。 かなりましになったとは言え、この状況では悟空の中で他人に対する恐怖心がふくらんできたとしても仕方がないだろう。 だが、それ以上に悟空は気持ちが悪くなってしまう。 何とか人の流れから抜け出すと、廊下の柱の影に座り込む。 「……いい加減、直さないとまずいんだけど……」 いつまでも三蔵に迷惑をかけるわけにはいかないのだ……と言うことも悟空にはわかっている。だが、すぐにどうなるものでもないことは事実。ともかく、悟空は少しでも気分がよくなるようにと、身を縮める。 そんな悟空の様子に気がつかないのか、それとも気がついても無視しているのか。誰も足を止めようとはしない。だが、それはそれで悟空にとって見ればある意味ありがたいことではあった。 「三蔵、早く迎えに来てくれないかな……」 それでも、ついつい助けを求めてしまうのは三蔵だった。 他の三人だって三蔵と同じくらい好きなのに、無意識に頼ってしまうのはどうしてなのだろうか。それは悟空自身にもわからない。一目会ったときから、彼の側は安心できると感じてしまったのだ。はっきり言って、直感だとしか言いようがない。 「迷子になったときは、動かない方がいいんだよな」 前に八戒がそう言っていたっけ……とつぶやくながら、悟空は黄金の双眸を閉じた。 おそらく既にプログラムが始まったのだろう。 廊下を歩いている人影は少なくなっていた。おかげで、周囲を見回しやすい。 「悟空!」 彼の名を呼びながら、三蔵は来たとおりの道を戻っていく。 「悟空、どこだ?」 その時だった。三蔵の視界の端を小さな足がかすめる。 「悟空?」 その足が履いている靴下の色に三蔵は見覚えがあった。 悟空の名を呼びながら、その足へと近づいていく。柱の陰に隠れるように座り込んでいたのは、間違いなくあの小さな少年だった。 「大丈夫か?」 側に歩み寄ると、静かにこう声をかける。 その気配を感じたのだろう。悟空が閉じていた瞳を開く。 彼の瞳が三蔵をとらえた瞬間、本当に安心したかのように悟空は微笑む。 「三蔵」 そして三蔵に向かって両手を差し出してくる。 「悪かったな」 自分も手を伸ばしつつ、三蔵は悟空の体を抱き上げた。 「……ごめん……」 その三蔵の耳に、悟空の謝罪のセリフが届く。 「何で謝るんだ、てめぇは」 悪いことをしてねぇだろう、と三蔵はため息混じりに口にする。 「だって……三蔵に迷惑かけたじゃん……俺、はぐれちゃったし……」 探させたし……と言いながら、悟空は三蔵の肩に顔を伏せた。 「つまんねぇ事を言ってんじゃねぇよ」 その背を軽く叩いてやりながら、三蔵は優しい声で言葉をつづる。 「お前の面倒を見るのは俺の役目だったからな。こうして最初から抱えておけばよかったのに、しなかったんだから、俺のせいだろう」 だから気にするな、と三蔵は付け加えた。 「だけど……」 悟空はさらに何かを口にしようとする。だが、三蔵はその悟空の頭を自分の肩に押しつけて言葉を封じた。 「いつまでもうだうだ言ってんじゃねぇよ」 それだけではなく、言葉でもそれ以上聞く耳持たないと三蔵は悟空に告げる。 「さて、父さん達も心配しているな……八戒も来るはずなんだが……」 下手に動かない方がいいか、といいながら、三蔵は悟空の体を抱えなおした。 「……八戒も来るの?」 三蔵の言葉に、悟空はぎょっとしたように体を起こす。 「一人で探すより、二人で探した方が良さそうだったんでな。父さん達にも連絡を入れてある」 さらりと三蔵が言い返すと、 「……俺のドジ、みんなにばれちゃったの?」 またなんか言われる……と悟空は付け加える。 「ば〜か。黙ってた方がみんな心配するだろうが」 そんな悟空に、三蔵はあきれたようにこう言い返した。それに、悟空はさらに何かを口にしようとする。 「よかった、見つかったんですね」 しかし、それを遮るように八戒の声が飛んできた。 「悪かったな、無駄足を踏ませて」 三蔵は八戒に向けてこう言う。 「いいえ。悟空に何かあったら心配ですしね。こういう事は無駄足でもかまいませんよ。もっとも、悟浄なら見捨ててますけど」 あの人は、よく女性を追っかけていって行方不明になっていますし……と付け加えながら笑ってみせる八戒に、悟空は目を丸くした。 「ともかく、父さんに連絡を頼む」 この状況じゃ、携帯を出せないしな……と付け加える三蔵に、八戒は頷いてみせる。 「俺、降りる……」 悟空はこういうと、慌てて三蔵の腕から降りようとした。しかし、三蔵の腕がそれを邪魔する。 「おとなしくしてろ」 ちょこまかしているとまた迷子になるぞ……と三蔵は付け加えた。 「そうですよ、悟空。顔色も悪いですし」 携帯を操作しながら、八戒も三蔵に同意を示す。 「今、三蔵の腕から降りたら、お義父さんに言ってこのまま帰りますからね」 そして、悟空を脅すようにこう言った。さすがにこの脅しには三蔵もぎょっとしたらしい。 「おい、八戒」 それは言い過ぎだろうと口にする彼に、八戒は苦笑を返す。 「このくらい言わないと、おとなしくしてないでしょう?」 そう言われては、返す言葉もない二人である。そんな二人の視線の先で、八戒が光明達と連絡を取っていた。 保健室で、養護教諭と光明の診察を受けてから、ようやく悟空は体育館へと行くことを許された。もっとも、那托達のクラスの出し物が終わるまで……という条件付きであったが。 「それ以上は、今の貴方ではちょっと無理です。体温が下がっていますし、心拍数が増えていますからね」 また体調を崩しかねません……と光明に言われては、悟空もわがままを言えるわけがない。 そもそも、今日来たのは那托の出番を見るためだし、と自分を納得させる。 「そう言うわけですから、三蔵、お願いしますね」 今度は迷子にさせないように、と言外に付け加えられて、ばつが悪そうな表情を三蔵は作った。 「わかりました。気をつけます」 今度は抱えていきますから、と言うと同時に、三蔵は悟空の体を抱え上げる。そして、そのまま保健室を出て行く。 「僕もつき合いますよ」 その後を、八戒が慌てて追いかける。 「悟浄はどうしますか?」 三人の背後から光明の言葉が聞こえた。 「……どうすっかなぁ……」 「来んな!」 面倒くさそうだとはっきりとわかる口調の悟浄に、三蔵がこう叫び返す。 「そうですね……暗いところで女性の隣になんかに座ったら、何をしでかすかわかりませんものね、悟浄は」 さらに追い打ちをかけるように八戒がこう付け足した。 「それではいけませんねぇ……さすがに軽犯罪とは言え、犯罪を犯した場合、里親の資質を問われてしまいますし……」 それを真に受けたのか、巧妙な真剣な口調でこうつぶやいている。 「いくら俺でも、TPOぐらいは知ってるぞ!」 悟浄のこの必死の主張は、誰の耳にもとめてもらえなかった。 「……いいの?」 三蔵の腕の中から悟空が思わずこう問いかける。 「かまわんだろう。元々、あいつは来る予定じゃなかったんだし」 「それに、これから用事があるはずですしね」 にっこりと微笑みながら八戒が口に多セリフの裏には、間違いなく何か含まれているだろう。しかし、それを察するには悟空は経験が不足している。 「悟浄、忙しかったのか? 一緒に来て貰ってよかったのか?」 罪悪感で彩られた視線を向けつつこう問いかけた。 「あぁ、悟空が気にすることはありませんよ。全部悟浄が決めたことです。責任も悟浄が取りますって」 もう充分それができる年齢なんですし……と言われても、悟空は今ひとつ納得できないという表情を作っている。それは彼の年齢を考えれば当然のことであろう。 「お前が気にすることはない。悟浄が考えればいいだけのことだ」 それよりも那托の出番まで、後どれくらいなんだ? と三蔵は悟空の意識を別の方へと向けさせるようなセリフを口にする。 「確か、7番目でしたっけ? そろそろ行かないと、始まっているかもしれないですね」 ポケットからプログラムを取り出して、八戒も言葉を口にした。 「それって、まずくねぇ?」 悟空が慌てて二人に確認を求める。 「このままだとな」 「まずいですよね」 二人の答えに、悟空の表情に焦りが生まれた。 「三蔵……」 そのまま、どうすればいいのかというように三蔵に視線を向ける。 「ちゃんと間に合うように行ってやるって」 だから安心しろ、と言いながら、三蔵は歩き始めた。 その後を、当然のように八戒も追いかける。 当然のことだが、今度ははぐれることも悟空が具合を悪くすることもなく体育館へとたどり着いた。 「ちょっと待っていてくださいね。今、進行状況を見てきますから」 八戒がこう言い残すと、そうっとドアを開け暗幕をくぐっていく。三蔵達を残したのは、今の二人の体勢では体育館内にかなり光が入ってしまうと判断してのことだろう。 「……今、入っちゃだめなのか?」 その後ろ姿を見送りながら、悟空がこう問いかけてくる。こういう点に疎いのも、人と交わらないで生活をしてきたせいだろう。 「中で演技をしている人たちの迷惑になるかもしれないからな。八戒は慣れているから、その点心配しなくてもいいんだが……」 俺は駄目だからな、と三蔵は付け加える。 「……なんか、大変なんだ……」 悟空が感心したのか困惑しているのかわからない口調でこう告げた。 「俺、んな面倒なこと、できんのかな……」 学校来たら、しなきゃないんだろう……と付け加えられたセリフは、本気で不安そうである。 「大丈夫だ。悟浄でさえちゃんとやってられるんだし、お前ならすぐに覚える。家に来てからまだ半年経ってないのに、あれこれ覚えただろう?」 心配するな……と三蔵は微笑んでやった。 「うん」 三蔵の言うことは正しいと思っている節がある悟空は、素直に頷いてみせる。 「今度、似たようなところで映画にでも連れてってやるよ」 ふっと思いついたという口調で三蔵は言葉を口にした。その瞬間、三蔵の腕の中で悟空がうれしそうに笑ってみせる。 「どうせなら、僕も連れて行ってくれませんか?」 いったいいつの間に戻ってきていたのか。八戒が脇から口を挟んできた。 「……八戒……」 どう反応を返せばいいのかわからなかったのか。三蔵が複雑な視線を彼に投げつける。 「もちろん、自分の分の料金は自分で出しますよ。ただ、三蔵一人がついて行くよりも、僕も一緒に行った方が悟空を間に挟んで座れていいかなっと思っただけです」 それに、受験勉強の気分転換になりますし……と付け加えながら微笑んでいる八戒に悪気はなかったのだ、と三蔵は無理矢理納得をした。同時に、どう答えるべきか考えてしまう。 「八戒、中の様子は? まだ、那托の出番じゃなかったよな?」 だが、それよりも悟空のこのセリフの方が早かった。 「えぇ。今、前のクラスのラストシーンでしたから。ちゃんと間に合いましたよ。終わったら中に入りましょうね」 八戒にしても、悟空の方が優先なのは言うまでもないことである。彼の頭を撫でながら、頷いてやった。 「わかった……三蔵、降りてもいいか?」 俺、重いし……と視線を向けながら悟空が問いかける。どうやら、三蔵の腕が疲れるのではないか……と思っているらしい。それとも、いつまでも赤ん坊みたいに抱きかかえられているという事実が恥ずかしくなったのだろうか。 「別段、お前程度なら重くないがな」 勝手に動き回るんじゃないぞ、と釘を刺しつつ、三蔵は悟空の体を下ろしてやった。悟空ももう迷子になりたくないのか、三蔵の服の裾を掴みながら立っている。 その時だった。 ドアの向こうから拍手の音が聞こえてくる。 「終わったようですね。では、入りましょうか」 八戒がこう言いながら手を差し出してきた。悟空は、三蔵の服の裾を掴んでいるのと反対側の手を差し出す。その手を八戒がしっかりと握りしめる。 「悟空、裾、離せ」 それを確認してから、三蔵がこう口にした。 「何で?」 悟空が驚いたように聞き返してくる。 「これじゃ歩きにくいだろうが。ほれ、手をつないでやるから離せ」 こう言いながら手を差し出す三蔵に、悟空はようやくほっとした表情を作った。そして、三蔵が手を引っ込めないうちに、と言うように裾から手を離す。そして、三蔵の手をしっかりと握りしめた。 「さて、始まる前に行くぞ」 悟空の手の感触を確かめた三蔵が言葉を口にする。 そのまま歩き出した三蔵に、悟空達は引きずられるようにして歩き始めた。 「ったく、三蔵は……」 もう少し悟空のことを考えてあげないと嫌われますよ、と八戒がからかうような口調で告げる。 それに三蔵は無視することで答え、悟空は、 「俺、三蔵嫌いになんてならねぇもん」 きっぱりと言い切った。 「はいはい。でも、僕も嫌いにならないでくださいね」 そんな悟空に八戒が声をかける。 「もちろんじゃん」 明るい口調で悟空が答えると同時に三人はそのまま暗幕をくぐり抜けた。 「学校って……なんかよくわかんねぇ……普通の勉強もしてんだよな?」 家に帰ってからというもの、悟空はこう問いかけてる。 「もちろんに決まってるだろう! あれは、年に一度のお祭りだからだ。いつもはあんなに人もいねぇし、普通の勉強をしているってこの前見て……来なかったんだな……」 あれに邪魔されたんだった、と三蔵がため息をつく。 「いきなりどうしたんですか?」 那托からあれこれ聞いていたから、どうして悟空がこのような疑問を持ったのかわからないと八戒は逆に聞き返して来る。 「……悟浄がさ……学校に行くと、毎日お芝居の勉強があるんだって言ってたから……」 ここしばらく、那托も劇の話しかしてくれなかったし……と悟空は小さく付け加えた。 「那托の方は仕方がありませんけど……」 「あの馬鹿は許せねぇな」 彼のセリフをしっかりと聞き取った二人がは顔を見合わせると頷きあう。 「三蔵? 八戒?」 いったいどうしたんだろうというように、悟空は二人を見つめる。しかし、二人はなにやら含み笑いをするばかりで悟空の質問には答えてくれなかったのは言うまでもないであろう。 その答えがわかったのは、夕食時だった。 「んっげぇ……何で、これ、めっちゃ辛いんだよ!」 自分の分の栗ご飯に箸を付けた悟浄がこう叫ぶ。 「……辛かった? 俺、何か失敗した?」 夕飯の手伝いでくりご飯の下ごしらえをしていた悟空が、こう口にした。 「そんなことありませんよ。栗はきれいに向けていますし、とてもおいしいですよ」 ねぇと他の二人に同意を求めたのは光明である。 「俺のも十分美味いが?」 三蔵もけろりとした口調で同意を示す。 「きっと、嘘つきの人だけ辛く感じるんですよ。だから、悟空のもおいしいと思いますよ」 にこやかに八戒が口にした言葉で、自分が悟空に教えたあれこれが彼の逆鱗に触れたのだと悟浄は状況を理解した。そして、これ以上うかつなことを口走れば、こんなものではないことも簡単に想像できる。今の悟浄にできることは、これ以上文句を言わずに、この激辛料理を残さずに腹の中に納めることであろう。 (……何で俺だけ……) 自業自得という言葉が未だに理解できない悟浄であった。 終
|