キスの意味1)金蝉 仕事も何も終えて、ようやく眠れるとばかりに金蝉は寝台の上に身を横たえる。 「金蝉」 その次の瞬間、悟空がおずおずと彼の顔を覗き込んで来た。 「何だ?」 そう言えば、今朝から誰かのしりぬぐいの為にばたばたしていたせいで、ゆっくりと話をする事も出来なかったな……と思いつつ、金蝉はそう問いかける。 「……あのさ……」 言いよどむ悟空に、金蝉は眉をひそめた。 (……今度は何をしでかしやがった) 悟空がこういう態度を取る時は、何か--------そのほとんどは何かを壊したという事が多い--------をしでかした時なのだ。当然、その後始末は金蝉がする事になる。 しかし、悟空が言いたかった事はそれではなかった。 「キスして」 いや、まだその方が良かったかもしれない……と彼のセリフを聞いた瞬間、金蝉は本気で考えてしまう。 「……キス…?……」 ひょっとしたら聞き間違いなのではないか……本の僅かな期待とともに金蝉は聞き返す。しかし、その願いはあっさりと打ち砕かれた。 「うん、キス。してくれねぇの?」 小首をかしげながら、悟空は金蝉を見つめている。その様子は、とても冗談を言っているようには思われない。だが、それはそれで問題が多いのではないだろうか。 「……テメェ……『キス』の意味が判っていて言っているんだろうな」 自分が教えた訳でも無い単語を口にする以上、誰かから聞いて来たのだろう。そう思って、金蝉は確認をするように問いかけた。もし、ここで『知らない』と言えば、それを楯にしない事も可能だと考えたのだ。 「知ってるよ。ちゅーの事だろう」 けろりっとした口調で悟空がこう答える。それはある意味正しいのだが…… (まぁ、キスにも色々と種類があるからな……) どうせ、天蓬か誰かが教えたのだろうと金蝉はため息をつく。 「じゃ、お前の知っているちゅーって言うのをしてみろよ」 もし、とんでもない事まで教えていたら、いくら彼らでもただではおかないと思いつつ、金蝉はこう口にする。 「えっ? いいのか」 まさか金蝉がこんなセリフを口にするとは思っていなかったのだろう。悟空は目を丸くしている。 「嫌なら止めろ」 「やじゃないもん!」 この叫びとともに悟空の顔が金蝉へと迫って来た。次の瞬間、唇に何か柔らかいものが押し当てられる。そう思った次の瞬間には、それは離れていく。 「やった。金蝉にちゅーしちゃった」 そして、金蝉の目の前で悟空が『えへへ』と笑っていた。 (ま、こんなもんだろう) どこかホッとしたものを感じながら、金蝉は体を起こす。 「で、俺にもそれをしろって?」 面倒くさいという感情を隠さずに金蝉はこう問いかけた。 「してくんねぇの?」 してくれるよなと顔にでかでかと書きながら、悟空は金蝉の瞳を覗き込んでくる。はっきり言って、この顔に逆らうのは難しいかもしれない。 「仕方がねぇな」 ちょっとしてやれば満足するだろう。 そう判断すると、金蝉は手を伸ばして悟空の後頭部に手を添える。そしてそのまま自分の方へと引き寄せた。 唇が触れ合う。 ぬくもりを感じた……と思った瞬間、金蝉は悟空を解放する。 「これでいいんだろう」 さっさと足の上からどけと付け加える金蝉に、悟空は満面の笑みを見せた。 「わ〜い。口にちゅーしてもらったァ」 こう言うと同時に、嬉しそうに金蝉の膝の上で飛び跳ねる。流石にこれは辛い。 「馬鹿猿! 俺の足の骨を折る気か!」 悟空一人の体重ならともかく、手足につけられた枷の重さは、大人一人分以上なのだ。ここが寝台の上でなければとっくの昔に医者の世話になっている事だろう。 「ご、ごめん」 その事実を思い出したのだろう。悟空は慌てて金蝉の膝の上から下りた。 「ったく……」 さらに怒鳴りつけてやろうかと金蝉は悟空を睨み付ける。しかし、身を縮めている悟空の様子を見たらその気が失せてしまった。おそらく、本人は枷の存在を忘れていたのだろう。日常的につけられている以上、それは無理も無い事かもしれない。 「これで満足したろう? さっさと寝ろ」 本当なら誰に教えてもらったのかとか、いきなりなんでこんな事を言い出したのかとか問い詰めたい事はたくさんあった。しかし、気力がうせるとともに脱力してしまう。 俺は寝るぞ……と宣言をすると、金蝉は悟空に背を向けるように再び寝台に体を横たえる。 「……おやすみなさい……」 その背に向かって、悟空が小さな声でこう言って来た。 「そういや、悟空が誰から教わったのか、聞いていなかったな」 夕べは、気力がうせてしまったせいでしなかったが……と金蝉はため息をつく。そして、そのまま何気なく視線を外へと向けた。すると、そこに子猿ともう一人の姿が見える。 「ババァが、いったい、猿に何の用なんだ?」 ろくな事ではないだろう。しかし、あまり変な事を吹き込まれては後々困る……と、金蝉は腰をあげた。そして、その会話の内容を確認する為にそうっと二人の方へ歩み寄っていく。 「そうか、そうか。皆にキスしてもらったのか」 良かったなと言う観音の声が金蝉の耳に届く。 「うん。天ちゃんと、ケン兄ちゃんにはおでこで、金蝉には口にちゅーしてもらった」 嬉しそうに報告をする悟空に、金蝉は頭痛を覚えてしまう。そんな事、観音に知られたら、後々どれだけからかわれるか判ったものではないのだ。 「ほぉ……あの朴念仁がなぁ」 案の定、妙に楽しそうな口調で観音がこう言う。 「ほっぺが挨拶で、おでこが可愛いで、口が大好きなんだよな」 悟空にそんな観音の変化が判るわけがない。満面の笑みを浮かべて、こう問いかけていた。 「そうだ」 「って事は、金蝉、俺の事大好きだって思ってくれてるって事だよな?」 「あぁ、そう言う事だ」 こう答えてやりながら、観音は金蝉がいる方向へと視線を向ける。そして、にやりと唇の端を持ち上げた。 (……ばれたか) その視線に、金蝉は無意識に肩をすくめてしまう。 しかし、観音は直ぐに悟空に視線を戻した。 「悟空」 綺麗に口紅が塗られた唇が、再び言葉を紡ぎ出す。 「大好きよりももっと上のスキのキスを知りたくねぇか?」 その内容は、はっきり言ってとんでもないものだった。 「そんなのあるのか?」 しかし、そんな大人の事情を知らない悟空は、観音のセリフを素直に受け止めたらしい。 「じゃ、俺、金蝉にしないと……なぁ、教えてくれるか?」 「あぁ、構わんぞ」 悟空の答えに観音はしてやったりと言う表情を作った。そして、そのまま手を伸ばすと小さな身体を自分の方へと引き寄せる。 「いい加減にしやがれ、このくそババァ!」 観音の唇が悟空のそれを覆おうとした寸前、小さな身体が彼女の腕の中から消える。 「この馬鹿猿! ババァに遊ばれてんじゃねぇよ」 悟空の襟首を掴んだ金蝉はこう叫びながら、ずるずると彼の身体を引きずっていった。 「やっぱ、楽しいじゃねぇか」 その後ろ姿を見送りながら、観音はさらに唇を歪める。そして、次はどうやってからかってやろうと考えていた。 2)三蔵・悟浄・八戒 「あれ、悟浄だ……」 こんな時間--------はっきり言えば、今は午前8時を過ぎたばかりだ--------珍しいなと思いつつ、悟空は彼に声を掛けようとする。 しかし、それよりも一瞬早く、悟浄の腰に誰かが抱きつくのが見えた。身体の線から、それが女性であると言う事は悟空にも判る。しかし、二人の関係までは想像できなかった。 「誰だろう」 おそらく、三蔵や八戒ならこの後に続くであろう行為を想像して黙って目をそむけただろう。だが、そっち方面では完全にお子サマな悟空にそれを求めるのは無理というものだ。 どうすればいいのか判らないまま、悟空は悟浄と女の人を見つめている。 目の前で、二人は何やら会話を交わしていた。 そして、笑みを浮かべると、ゆっくりと顔を近づけていく。 二人の唇が触れ合った事が悟空にも判った。しかし、それが持つ意味は何かのコミュニケーションの一貫なのだろうという事しか判らない。 (あれ?) 不意に身体の奥深い所から何かがわき上がって来た。 しかし、それは形になる前に別の何かによって散らされてしまう。 それがもどかしくて、悔しくて、悟空は叫び出したくなってしまった。。 「ほっぺが挨拶で、おでこが可愛いで、口が大好き……」 しかし、その代わりに口から飛び出した言葉に、悟空本人が驚いてしまう。 「……どこで聞いたんだっけ……」 三蔵がこんなセリフを言うはずがないし、八戒も悟空が聞かなければ教えてくれるわけがない。目の前の相手に至っては、こんなセリフを言う前に自分をからかうに決まっている……と悟空は考え込んでしまう。 しかし、いくら考えても結論は出なかった。しかも、 「悟浄、いないじゃん……」 ぼうっとしている間に女の人とどこかに行ってしまったのか--------それとも、家へ帰ったのか--------先程まで悟空の視線の先にあったはずの見慣れた姿は消え去っていた。 「……やべっ……たばこ買ってかえらねぇと三蔵に怒られる!」 そのために、悟空は早々に寺院を出て街へとやって来たのだ。しかも、出掛けのあの様子だと三蔵はかなりキテいるようにも思える。ここ数日の忙しさを考えれば、それも無理は無いのかもしれないが…… 悟空は慌ててかけ出すと、たばこを買う為に店へと駆け込んだ。 あの時の悟浄の光景は、珍しくも悟空の頭の中に焼きついている。 しかし、それがどのような意味を持つ行為なのかを三蔵には尋ねられないでいた。いや、タイミングが掴めなかった……と言った方が正しいかもしれない。 答えが判らないからだろうか。 ふっとした拍子にあの光景が脳裏に浮かんでしまう。その状況に、いい加減、悟空も嫌気がさして来ていた。 こう言う時に悟空が質問できるのはもう一人しかいない。 「八戒!」 いつものように、キッチンの窓の側からそう呼びかける。 「いらっしゃい、悟空」 直ぐに家の中から八戒の声が帰って来た。 「今、玄関を開けますから回ってください」 その言葉とともに、八戒が移動をする気配が伝わってくる。それに合わせて悟空もまた外を回って玄関へと走っていった。 まるでタイミングを合わせたように、ドアが開かれる。 「今日はどうしたのですか?」 悟空を招き入れながら、八戒が問いかけてくる。 「んっと……聞きたい事があったんだけど……」 邪魔じゃなかった? と問いかければ、八戒は穏やかな笑みを浮かべた。 「丁度退屈をしていましたから、大歓迎ですよ」 そして、視線だけで悟空にいすに座るように促す。素直にテーブルに歩み寄っていく悟空の視線に、八戒が今まで手を着けてたらしいクロスワードパズルが映った。どうやら、暇だったという彼の言葉が嘘ではなかったらしいと、悟空はホッとする。 そんな彼の前に、手際よく用意されたお菓子や飲み物が差し出された。 「聞きたい事ってなんですか?」 悟空の向かいに腰を下ろした八戒が微笑みながらそう問いかけてくる。 「あのさ……口と口をくっつける事って何なんだ?」 その笑顔に促されるように、悟空は質問を口にした。 「あ、あの……」 次の瞬間、八戒の笑顔がこわばる。 「口と口ですか? いったい……」 「この前さ。悟浄が女の人とやってたから」 珍しく焦っている八戒に向かって、悟空はさらに説明を付け加えた。 「……あの人は……」 八戒は何やら口の中で呟いている。しかし、悟空はそれをはっきりと聞き取る事は出来なかった。 「八戒?」 そんな八戒の態度に不安を覚えた悟空が、恐る恐る声を掛ける。ひょっとして、自分はまずい事を聞いてしまったのではないだろうか……と言う感情が彼の表情にはしっかりと現れていた。 「あぁ、すみません」 そんな悟空の表情に気がついたのだろう。八戒は慌てていつもの微笑みを口元に浮かべた。 「それは多分『キス』ですよ」 「キス?」 「えぇ……好きという表現の一つですよ。別に口と口をくっつけるだけじゃないんですけどね。悟浄はそうするのが一番好きみたいですね」 だから、真似をしなくてもいいのだと八戒は付け加える。 「……ほっぺとか額とか?」 悟浄のキスシーン--------ようやく、その単語を使えるようになった--------を見た時、ふっと唇をついて出たセリフを悟空は口にしてみる。 「えぇ、そうです。三蔵にしてもらったんですか?」 つい口が滑ってしまったのだろう。八戒は自分が言ったセリフの意味を理解した瞬間、苦笑を浮かべてしまう。悟空も同じように苦笑を浮かべたまま首を左右に振って見せた。 「わかんねぇ……ただ、この前、悟浄がキスしている所を見たらそんな事思い出したから……」 誰に聞いたかは思い出せねぇンだけど……と悟空は笑って見せる。しかし、どこか悲しげなその笑顔に、八戒はかすかに眉をひそめた。 「誰かが何かの拍子に話していたのを脇で聞いていたのかもしれないですね。そうそう、昨日、パイを焼いてみたんですよ。食べますか?」 そして、悟空の意識をそらそうというかのようにこう口にする。 「エッ? パイ? 何の?」 そんな八戒の考えが分かっていても、食べ物には逆らえない悟空だ。即座に目を輝かせてこう問いかけてきた。 「林檎とオレンジがありますけど……どちらも食べますよね」 「もちろん!」 元気のいい返事が悟空の口から飛び出す。それに、八戒は微笑んで見せると、パイを切る為に腰をあげた。 「……八戒から、預かって来た……」 夕食時に戻って来た三蔵に向かって、悟空は封筒を差し出す。そのセリフで、昼間姿を見かけなかった彼がどこに行っていたのか理解したのだろう。仕方がないという表情を作りながら、三蔵は悟空の手からそれを取り上げた。 「何なんだ、いったい」 そして、こう言いながら封を切る。かすかな音を立てて、中に入っていた便箋を広げると視線を落とした。次の瞬間、三蔵の眉がしかめられるのが悟空にも分かる。 「三蔵?」 一体何が書かれてあるのだろうか……と言う興味と、三蔵の機嫌をそこねてしまったのかと言う不安がない交ぜになった声で、悟空は彼の名を呼んだ。 「何でもねぇよ」 その声に顔を上げると、三蔵は手の中の便箋をたたみ直す。そして、珍しくもそれを自分の僧衣の胸へと押し込む。 「それより、さっさとテーブルを拭け。お前の仕事だろう」 そして、じぃっと自分を見つめている悟空に向かってこう言った。 「もう拭いたってば」 悟空は即座に言い返す。自分がさぼっていると思われたのが気に入らなかったのだ。 「そうか。なら、茶でも淹れろ」 こう言うと、三蔵はさっさと新聞を引き寄せる。 「……機嫌悪いじゃん……」 ぶつぶつと文句を言いながらも、悟空は言われたとおり三蔵の為にお茶を淹れてやる。そして、中身をこぼさないように慎重にテーブルの上へ置いた。まるでそのタイミングを見計らっていたかのようにドアが開き、彼らの夕食が届けられたのだった。 こうなると、食欲の方が優先されるのが悟空である。三蔵が機嫌が悪そうだという事自体、彼の頭の中から追い出されてしまった。 手慣れた仕種でテーブルの上に運ばれて来た食器や惣菜を並べていく。 「いただきます」 両手を合わせて挨拶をする悟空の姿を、三蔵が複雑な表情で見つめていた。しかし、完全に目の前の料理に意識を奪われている悟空は、その事実に気がつかない。ひたすら皿の中を空にしていく事に専念していた。そんな彼の様子に、三蔵はため息をつくと、自分もまた箸を手に取り食事を開始する。 黙々と食事を続けていけば、当然のように皿の上の物は何も無くなってしまう。いくら悟空がもっと食べたいと思っても、無くなってしまえばどうしようもない。ため息をついて、悟空は箸を置いた。 「ごちそうさまでした」 こう言うと、ようやく悟空は三蔵へと意識を戻す。何か考え事をしているのか、機械的に箸を動かしては口の中に放り込んでいるように見えた。 「三蔵、まずいの?」 今日もいつもと変わらない味だったと思うのだが……と小首をかしげながら問いかければ、 「別に」 あっさりとこう言い返される。 では、一体何がそんなに気に入らないのだろうか…… (……八戒の手紙を見てからだよな……) それに三蔵を怒らせるような内容が書かれていたのかと悟空は小首をかしげて見せる。 「そういや、八戒に試してみれば……って言われたんだっけ」 手紙から連想して思い出した内容は、確かに自分が持ちかけた質問の答えではあった。しかし、それをどうして彼に言わなければならないのかというと、ちょっと疑問が残る。ついでに言えば、今の状態の三蔵にそれを行った結果、どうなるか分からないという恐怖もある。 「何ぶつぶついてやがんだ、テメェは」 それが気に入らなかったのだろう。三蔵が悟空をにらみながらこう言ってくる。 「……何って……」 「言いたい事があるなら、はっきりと言え! といつも言っているだろうが」 言いよどむ悟空に向かって、半ば怒鳴るように三蔵がこう言って来た。 「あのさ……キス、してくれる?」 仕方がなく、悟空は八戒から言われたセリフを口にする。 「ったく……面倒くせぇ……」 三蔵はそう言いながら、箸を置いた。そんな彼の仕種に、悟空は無意識のうちに肩をすくめてしまう。 「猿」 三蔵は、だが、そんな悟空の仕種を気づかなかったというように声を掛けて来た。悟空が視線を向ければ、三蔵が指先だけで彼を呼び寄せている。 もし、それに逆らえば本気で怒らせてしまうだろう。 「……何?」 悟空は素直に三蔵の元へと歩み寄っていく。そして、彼の側で立ち止まった。 三蔵の腕が、即座に悟空へ向かって伸びてくる……と思った次の瞬間には、後頭部を捕まれ三蔵の方へと引き寄せられてしまった。 かすめるように、唇に温もりが与えられる。 それが何なのか、悟空には一瞬分からなかった。しかし、直ぐにその行為が何と言う者なのか、分かってしまう。 「……三蔵?」 信じられないというように目を丸くする悟空から視線を背けると、 「さっさと風呂に入って来い」 三蔵はこう言う。そして、自分は食事を再開したのだった。 「えへへへへ……」 そんな三蔵を見ながら悟空は思わずはにかんだような笑いを漏らす。 「口へのちゅーは大好きって事なんだよな……」 三蔵の耳へは届かないような小さな声で悟空はこう呟いた。 後日、悟浄は訳がわからないまま、八戒と三蔵の八つ当たりを受ける羽目になる。 「何で俺が……」 身体のあちらこちらに絆創膏を貼った悟浄がぼやいているのが悟空の耳に届いた。 「アサガエリしているからだって言ってたぞ」 そんな彼に、悟空は三蔵が言っていたセリフを投げかける。 「何だよ、そりゃ……」 何か失敗したっけ、おれ……と悟浄は呟きながら考え始めた。しかし、思い当たる節がたくさんありすぎるのだろう。直ぐにその行為を放棄してしまう。 「……ともかく、バレねぇようにすりゃいいわけだな……」 こう呟く彼の考えは、その答えから遠く離れたものだという事に最後まで悟浄は気がつかなかった。 終 |