「三蔵、俺ね……」
 こう言いながら、三蔵に可愛い小猿が膝にすがりついてきた。
「ウゼェ! 離れろ」
 口ではこう突き放すものの、そうしたらそうしたで怒る自分を三蔵はわかっている。
「……う〜〜っ」
 目の前の小猿もそれを知っているはずなのに、相変わらず可愛らしい表情で悩んでいる。
 それが、仕事でささくれ立っていた三蔵の心をなだめてくれた。
「まぁいい……何だ?」
 だから、少しだけ口調を和らげて次の言葉を促す。
「俺ね、三蔵のためならI Love Youなんだからね」
「はぁっ?」
 その言葉の意味がわからないわけではない。
 だが、この使い方でいいのか、と言うと思いきり悩む。
 というよりも、間違っているだろう……と三蔵は心の中で呟いた。
 どうせなら、もっ取りがったシチュエーションで聞かせろよ、と付け加えたのは、三蔵の本音だろう。
「お前、それ、意味がわかっていっているのか?」
 ここでふっと思い出したのは、今日、悟空があの二人の所へ遊びに行っていた、という事実だ。
 あそこにいる有害生物が何か余計なことを吹き込んだのではないか、と思い当たったのだ。
「貴方のためなら死んでもいい、って事だろ?」
 しかし、悟空の言葉はそんな三蔵の予想の斜め上をいくものだった。
「悟浄が三蔵に言ってやれ、って教えてくれたんだけどさ。意味がわかんなかったから、これが何の挨拶かって八戒に聞いたんだ。そうしたら、こう教えてくれた」
 俺、三蔵のためなら、何時死んでもいいんだよな……と無邪気な口調で悟空は付け加える。
「……この、馬鹿猿!」
 次の瞬間、三蔵は悟空の頭の上に思い切りハリセンを振り下ろしていた。
「勝手に死ぬなんて言うんじゃねぇ!」
 結局はそれか、と八戒あたりが耳にしたら間違いなくため息をついただろう。
「……三蔵?」
「俺のためなら、死ぬんじゃなくて、最後まで生き残れ!」
 いいな、と言いながら三蔵は悟空の金目を覗き込む。
「……わかった……」
 三蔵が言うなら、それが正しいのだ……と認識しているらしい悟空はそんな彼に素直に頷いて見せた。
「わかったなら、茶でも淹れてこい!」
 ふいっと顔を背けながら三蔵はこう口にする。
「ちょっと待ってて」
 次の瞬間、悟空はパタパタと足音を立てながら駆け出していった。
「ったく……馬鹿猿。いい加減に気づけよな」
 その後ろ姿を横目で眺めながら三蔵はこう呟く。もっとも、それは無理だと言うことも彼はよく知っていた。

「……覚悟はいいな、エロ河童!」
 悟浄の顔を見た瞬間、三蔵は銃の撃鉄を起こす。
「ゴアイサツね、三蔵様」
 俺、何かしたっけ? と悟浄は呟きながら、後ずさる。その額には脂汗が滲んでいる。
「問答無用!」
 次の瞬間、周囲に深紅の髪の毛が散らばった。


ちゃんちゃん

04.09.8

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