「……4月8日って……お釈迦様の誕生日なんだよな」
 他人が忙しかろうとなんだろうと、オコサマには関係ないらしい。
「それがどうかしたのか?」
 その事実がしゃくに障りながらも、忙しいのはこいつのせいじゃない……と思いながら三蔵は言葉を返す。
「じゃさ……他のカミサマとかにも誕生日ってあるわけ?」
 例えば、菩薩とか……と悟空はさらに問いかけてきた。
「あるだろう、そりゃ」
 存在している以上、この世に生まれ出た日があるはずだ……と三蔵は付け加える。
「もっとも、それがいつかはしらねぇが」
 シャカ――仏陀は建前上、この世界の人間が解脱をして天界に迎え入れられた存在……と言うことになっている。もちろん、それも本当かどうか、三蔵にはわからないが。だが、一応、そう言うことを説法とやらで口にしている以上、否定は出来ない、と言うわけだ。
「シャカにしても、既に1000年ぐらい前の人間だ……という話だしな。それ以外の神と言えば、どれだけ生きているのかわかったもんじゃねぇ」
 化石やなんかと同じだぞ、あれは……と三蔵は言い切った。
「……化石……」
 つい先日、山から拾ってきたものを思い出したのだろう。悟空は目を丸くしている。
「カミサマって、がちがちに堅いのか?」
 同じだというのであれば、そうなのだろうと判断したのか。悟空はこう聞いてきた。
「……堅くはねぇが、ジジババだって言うのは事実だろうな」
 少なくとも、自分達の常識ではそう言うことになるだろうな……と三蔵は唇の端を持ち上げる。
「ジジババって……しわくちゃなのか? 大僧正のじいちゃんみたいに」
 だが、この前斜陽殿で見た三仏神の顔にはそんなにしわがなかったと思う……と悟空は小首をかしげた。
「考えてみろ。街のおばさん連中は、遠目にはしわがないように見えるだろうが。それと同じことだろ」
 化粧だのなんだのって言うのでしわを誤魔化しているに決まっている……と三蔵は告げる。
「天上界なんて、どうせ暇なんだ。そう言うことばかりにかまけているから、厄介事をこっちに押しつけてくるんだろうよ」
 納得したか? と三蔵が口にすれば悟空は素直に頷いて見せた。

「ほぉ……」
 いつものように池を水鏡にして下界の様子を見ていた観世音菩薩は、この会話に器用に片眉だけあげた。
「言ってくれるじゃねぇか」
「……菩薩様……」
 ニヤリと笑う菩薩に、二郎神が慌てて声をかける。
「ったく……転生しても口の悪さは変わらない。いや、ますます磨きがかかったようだな」
 なら、ご褒美に厄介事を押しつけてやろうじゃねぇか……と菩薩は口にした。

 三蔵が、それからすぐに目が回るほど忙しくなったことは事実。それが誰の差し金か、本人達だけが知らなかった……かもしれない。


ちゃんちゃん

04.04.08