最遊記 ちょびっツ版


「……これは、パソコンか……」
 三蔵はゴミステーションに転がっているヒトガタを見てこうつぶやく。しかし、何故このようなものが捨てられているのかわからない。わからないが、捨てられている以上、拾っても文句は言われないだろう。
「もらってってやるか」
 三蔵はこういうとそれに手を伸ばす。そのまま肩に担ぎ上げるとゴミステーションからさほど離れていない自分のアパートへと歩き出した。
「何だ? 何を拾ってきたんだ?」
 階段を上がろうとした彼に、このアパートの管理人である菩薩が声をかけてくる。
 ウザイとは思うものの、ここで下手な応対をして追い出されてはたまらない。はっきり言って、これ以上条件のいいアパートなどなかなか見つからないだろうと想像ができるのだ。
「そこでパソコンを拾ったんだよ」
 使えるかどうかはわからないがな……と三蔵は口にするとそのまま階段を上っていく。
「……まさか、あいつがあれを拾ってくるとはな……」
 そのまま自室のドアを開けている三蔵の後ろ姿を見上げながら、菩薩は小さくつぶやいた。
「まぁ、これも一種の偶然というのか? いや、必然かもしれねぇな」
 こう言いながら菩薩もまた自室へと向かう。そして、ふっと思い出したかのように
「ともかく、見守っていてやるよ……約束だからな」
 と付け加えた。
 
「とはいうものの、どうやって起動すればいいんだ、これは……」
 幸か不幸か、今までパソコンとは無関係な生活を送ってきたのだ。所有したことはおろか使ったことさえない。ついでに言えば、自慢ではないが文明の利器というものが不得手だったりする。
「どっかにスイッチがあるんだろうが」
 そう言いながら、三蔵は目の前のパソコンをしっかりと見つめた――と言うよりはにらみつけたといったん方が正しいかもしれない――
「スイッチってのは、普通でっぱてんだよな」
 って事は、どこかを押すか何かすればいいんだろうと思いつつ、三蔵はパソコンの体中をいじくる。だが、どうしても起動する様子を見せない。
「後は……」
 どこだろうな……と思いながら、三蔵はパソコンの全身をもう一度確認するように見回した。
「まさかここかよ」
 そして、思いついたのは……
「ままよ」
 三蔵は奧へを指を滑らせる。次の瞬間、パソコンの中で何かが小さな音を立てて動き始めた。
 次の瞬間、パソコンを包んでいたベルトが一気に収縮をする。
 それが完全にその小さな体から外れると同時に、パソコンのまぶたがゆっくりと持ち上げられた。
「……ん……」
 黄金の瞳が光をはじく。
 視線がゆっくりと三蔵に向けられた。
 次の瞬間、それはうれしそうに満面の笑みを浮かべる。
 そのままそれは手を伸ばすと三蔵に抱きついてきた。
「・・・・」
 はっきりと聞き取れないつぶやきが、それの口からこぼれ落ちる。
「……これは、懐かれたってことか?」
 確かに、自分のものとして使えるかなと思って拾ってきたことは事実だ。しかし、だからといってこんな状況になるなどとは考えても見なかった……というのが三蔵の本音である。
「まぁ、いいのか……嫌われるよりは好かれた方がいいだろうな」
 ところで、パソコンってどうやって使うんだ……とどこか間の抜けたセリフを三蔵は口にした。
「ん?」
 そんな三蔵に、パソコンが笑いかけてくる。
「まぁ、いいことにするか。後で悟浄あたりにでも聞いておけばすむことだ」
 こういうと、三蔵はすっぽんぽんのパソコンに着せる服を探すために立ち上がった……

ちゃんちゃん