お風呂 外で遊んでいるうちに、しっかりと泥だらけになってしまった。 しかし、このまま家に帰っても今日は誰もいない。何でも、大人達だけで話し合いがある、というのだ。 「……どう、しようかな……」 風呂を沸かせばいいのだろう。 しかし、真壁家の風呂は、このご時世にしては珍しく薪で沸かすものだったりする。 はっきり言って生活能力のない父だが、さすがにそれを一騎に任せるのは不安なのだろう。風呂焚きだけは自分の仕事として譲らない。そのために、一騎は未だに自宅の風呂を沸かせないのだ。 「このままじゃ、絶対、家を汚すよな……」 そうすれば、掃除をしなければならないのもまた自分だ。 ただでさえしなければならないことも多いのに、さらに増やしてどうする。 一騎はそう判断をしてため息をつく。 「どっかで水浴びでもしていくか……」 服のまま泳げば、少なくとも泥で部屋が汚れることはないのではないだろうか。そんなことすら考えてしまう。 「何、ぶつぶつ言っているんだ、一騎?」 そんな一騎の耳に、耳になじんだ声が届く。 だが、それは別の意味で一騎を緊張させる。 「……総士……」 彼の顔に消えない傷を付けたのは自分。 彼の片目から光を奪ったのも自分。 それなのに、どうして彼は自分に対する態度を変えないのだろうか。 まだ、なじってくれるとか嫌ってくれた方が良いのに、とも思う。 「またそんなに汚して……おじさんはいないんだろう? おいで」 しかし、そんな一騎の気持ちを知らないはずはないのに、彼はこう言って手を差し出してくる。しかも、その声には自分の言葉を一騎が聞き入れないはずはないと言う響きが感じられるのだ。 「……いい……汚れる……」 その手から逃れるように一騎は一歩、後ろに下がる。 「遠慮しないで。おいで」 優しげな笑みを浮かべながら、総士は真っ直ぐに一騎を見つめてきた。その瞳を向けられれば一騎は逆らえない。おずおずと手を差し出した。そうすれば、予想よりも強い力で握られる。 「いい子だね、一騎」 満足そうな笑みを浮かべると、総士はそのまま歩き出した。 もちろん、彼が向かうのは皆城家だ。 そして、そのまま真っ直ぐに一騎を風呂場まで案内をする。それもある意味予想していた総士の行動ではあった。 しかし、だ。 「何で、総士まで服、脱ぐんだ?」 一騎の服をはぎ取った後、当然のように総士は自分の服を脱ぎ出す。その意図がわからずに、一騎は思わず後ずさってしまう。 「なんでって、一緒にはいるからに決まっているだろう?」 一騎一人だと、耳の後ろまでちゃんと洗わないからね。彼は微笑みながらそう言いきった。 「そこまで子供じゃない!」 一人で洗える! と一騎は叫ぶように告げる。 「いいから。ね?」 男同士だろう、と付け加えられても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 だが、一度こうと決めたら引き下がらないのが総士だ、と言うことも知っている。結局の所、一騎は彼に押し切られるしかないのだ。 バスルームに追い立てられて、一騎は総士に全身を洗われていた。 「そこはいい!」 だが、一騎にしてもこれだけは譲れない、という場所がある。そこにまで総士の手が忍び込んできたとき、一騎は慌てて彼の手首を掴んだ。 「良くないだろう? ここは一番大切な場所だし……まだ……だしね」 最後に声を潜めて付け加えられた言葉に、一騎は頬だけではなく、全身真っ赤になってしまった。 確かに、それは否定しない。 というよりも、そもそもここではそんなことをする相手がいない、と言うべきか。 狭い竜宮島の中では、同年代の人間は全員が幼なじみだと言っていい。好奇心でそう言うことをするような相手にすべきではないのだ。一騎はそう信じていた。 だが、こっそりと盗み見れば、総士のそれは既に大人の形になっている。と言うことは、やはり彼はとっくに経験をしているのだろうか。 だとしたら、相手は誰だろう。 そう考えてしまうのは、やはり一騎も健全な男の子だからだろうか。 「いっそ、剥いちゃう? そうすれば、後が楽だよ?」 こう言いながら、総士が一騎のそれに触れてきた。 「だめっ!」 「いいから。僕がやってあげるよ」 任せておいて、とこう言うときに似つかわしくない笑みを彼は口元に浮かべる。だが、その瞳には本気の光が見て取れる。 「いい! 自分で……」 「出来ないよ、一騎には。だから、やってあげる」 大丈夫、直ぐだから……といいながら、総士はしっかりと一騎の腰を固定してしまった。そして、そのまま一騎のそれに絡めた指を動かし始める。 「ひっ! ひぁっ……」 自分で触れるのもおそるおそるなのに、他人にそこを触れられるとは思っても見なかった。しかも、そこから快感が広がってくるから余計にまずい。まずいのだが、それをもう拒めない自分がいることも、一騎は自覚していた。 「やっ……いたっ……いたぁい!」 実際にはそれだけではない。 だが、痛みに逃げなければまずいような気がして、一騎は必死にそれにしがみついた。 「直ぐだよ、一騎。そうしたら、気持ちよくしてあげるから、ね?」 だから、我慢して。この囁きと共に総士の指に力がこもった。 一騎の頭の中で何かが切れる音がする。 次の瞬間、股間から鈍い痛みが広がってきた。 「ひぁぁっ!」 一騎ののどがひくっと蠢く。同時にその体が痛みで硬直をした。 「ほら、これでもう大丈夫……後は、ちゃんと綺麗にしないとね」 満足そうな総士の声が、一騎の耳を打つ。同時に、今度は違った意味で彼の指が蠢きはじめた。 「あっ……あぁっ……」 先ほどまでは誤魔化していた快感が、今度は明確に一騎を包み込む。 「やっ……やだぁ……」 こんなのは、と一騎は口にしながらも自分で自分を支えきれずに総士の方にすがりつく。 「可愛いよな、一騎は」 だからもっと可愛いところを見せて……と総士の声が耳に直接響いてくる。しかし、その言葉を一騎は認められない。いやだ、と首を左右に振った。 「焦らしたりしないから。我慢しないでイっていいよ?」 それなのに、総士はこんなセリフを囁いてくる。 同時に、きつい刺激が初めて顔を出した部分に加えられた。 「やぁぁぁぁっ!」 背筋を熱いしびれが駆け抜けた。 そう思った次の瞬間、堪えるまもなく、一騎は総士の手の中に快楽を吐き出してしまう。 「いい子だ」 総士の手が一騎の背中をそうっと撫でてくれる。それを最後の記憶にして、一騎はそのまま意識を飛ばしてしまった。 「本当に一騎は……」 くったりとしてしまった一騎の体を膝の上に抱きかかえながら、総士は小さく笑いを漏らす。 「こんな時にそんなことをすれば、とんでもない結果が待っているってわからないんだろうな、まだ」 でも、それでいいんだけど……と小さな笑いを漏らす。 「これからもっともっと教えてあげるからね」 覚悟しておいて……と言いながら、総士は一騎の手首を掴む。そしてそのままそれを口元に引き寄せた。 「だから、今はこれだけで我慢しておいてあげる」 指先に軽くキスを送ると、今度は、自分の股間へと移動させた。そして、一騎の指に自分の欲望を握らせ、その上から自分の手を絡める。 「そのうち、一騎を全部貰うからね」 それまではこれで我慢してあげる、と付け加えられた言葉を耳にしなくて、一騎は幸せだったのかもしれない。 終 |