境界線


「あっ……やぁっ!」
 自分の体の奥深いところに総士がいる。
 その事実が一騎の神経を灼いていた。同時に、信じられないほどの快感が彼の体を追いつめている。
「あっ、あぁっ!」
 どうして自分たちはこんな事をしているのだろうか。
 それすらも思い出せない。
 ただ、ファフナーから降りて総士の思考が遠くなった瞬間、少しだけ寂しさを感じたのは否定しない。
 訓練も受けずに放りこまれた戦闘がそう感じさせたのだろうか。
 それとも、自分たちはもう今までの生活に戻れないと、それがわかっていたからだろうか。
 二度と戦いから逃れることは出来ないだろう。
 そして、何も知らなかった頃には戻れないのだ。
 だが、自分一人でなければあるいは耐えられるかもしれない……そう思っていたことも事実。
 しかし、総士のこの行為は、決してそれだけではないだろう。
 では何故なのか。
 その答えを見つけたかったのに。
「ひぁっ!」
 さらに奥をえぐられて果たすことはできない。
「何を、考えている?」
 一騎……と、普段の彼からは考えられない程濡れた声が耳の中に直接吹き込まれた。
「やっ……そぅし……」
 言葉を返したいのに、舌がもつれてしまう。
「今は、僕のことだけ感じて」
 後は何も必要ない。彼は言葉とともに一騎のそれに指を絡めてくる。
「あぁっ!」
 一騎の唇から甘さを含んだ悲鳴が飛び出した。その中にはせっぱ詰まったような色がにじんでいる。
「もっと、よくしてあげるよ」
 総士が一騎の耳元で満足そうな笑いを漏らす。同時に、一騎の内に埋め込んでいるものを大きく揺らした。そして、手の中の一騎の欲望に絡めた指もその先端を擦りあげる。
 濡れた音が周囲に響き渡った。
 それすらも、一騎の快感を煽る。
「可愛い……一騎……」
 荒いと息が、首筋をくすぐった。
「やぁっ、総士!」
 反射的に一騎は総士のそれを締めあげてしまう。そうすれば、一騎の中で彼の存在がリアルになる。
 それなのに、どうしてこんなに彼との境界線が曖昧に感じられるのだろうか。
 その答えを一騎は知らない。

《アナタハソコニイマスカ?》

 戦いの中で耳にした問いかけが不意に浮かんでくる。
 しかし、それはすぐに襲ってきた希求にかき消された。
「一緒にいこう、一騎」
 総士のこの呼びかけが、一騎の最後の記憶だった。