「……総士が……俺よりファフナーの方が大切だって、言ったぁ!」
 大きな瞳から涙をこぼしながら一騎がそう叫ぶ。
「一騎……」
 しまった、と思ったときは、もう後の祭りだった。彼はそのまま駆け出して言ってしまう。
「一騎と一緒の時に、他のことを考えていた、僕のミス、だな……」
 あんな事を言うつもりはなかった。
 というよりも、一騎の言葉を中途半端に聞いていたせいで、肝心の部分を聞き逃してしまった、と言うべきか。
 それとも、甲洋のところで見せた一騎の態度が自分にとって衝撃的だったのだろうか。
 個人的に言えば、彼がああなったことは自業自得だと思っているし、これで一騎にちょっかいをかけてこないのであればかまわないとすら思ってしまう。
 だから、彼らとファフナーではどちらが大切かと言われれば、当然《ファフナー》だと答えるに決まっていた。
 だが、一騎とファフナーなら……
「即答なんて、できるわけないだろう……」
 自分にとって、ファフナーは、この竜宮島を守るためになくてはならないものだった。そして、竜宮島を守りたい理由は、と問われれば、一騎がいるから、としか言いようがないだろう。
「……結局は……一騎をファフナーに乗せたのが一番の失敗だったんだよな……」
 まさか、彼女があっさりと殺されるとは思わなかったのだ。そして、一騎がシナジェティック・コードの形成率で最高値を記録していたこともまた事実なのだから。彼女がいなくなった以上、一騎が選ばれると言うことは十分予想が出来たことだった。
 だから、と言うわけではない。
 自分が彼を側に縛り付けようとしていたのは。
「……でも、一騎が僕の側から離れていくわけが……ないよ、な……」
 自分にとって彼が特別なように、彼にとっても自分が特別のはずなのだ。
 総士は、そう信じていた。

 それなのに……

「あの女狐!」
 よりにもよって、一騎にとんでもないことを吹き込みやがって、と総士は思い切り壁を殴りつけた。
「……どうしたの?」
 普段冷静な――と言っても思い切り変態なのだが――総士が、あんなにも感情を露わにしている様子に、誰もが驚きを隠せない。
「狩谷先生が……真壁君を拉致して、島を出て行っちゃったのよ……」
 小さな声で真矢がこう告げたときだ。
「マジ?」
「本当なの!」
「何で!」
 周囲から驚愕と怒りを含んだ声があがる。
「……狩谷先生……よりによって、俺らのアイドルを!」
「許せないわよ! お子様を拉致するなんて……そこいらのおじさん連中なら好きにしてくれて良かったけど!」
 そういう問題なのだろうか、と本気で悩んでしまう。
 もっとも、結局ここにいる面々は一騎ファンクラブ――と言っても、表向きには行動が出来ない。そんなことをすれば、総士に何をされるかわかったものではないのだ――のメンバーなのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが。
「ぜぇったいに、取り戻す!」
 異口同音の叫びが、司令室内に響き渡った。

「な、なに……」
 突如感じた悪寒に、狩谷は周囲を見回す。だが、当然のように誰がいるはずもない。
「気の、せいよね……」
 こうは思うものの、一抹の不安を隠せない彼女だった。

 一騎の運命はいかに……


終わらない(^_^;