「総士! お帰り」
 二泊三日の研修を終えて戻ってきた彼らを、一騎がこう言って出迎えてくれる。
 それだけなら、ある意味普通の光景だと言っていい。
 どうしたわけか――と言っても絶対に総士が何かをしたに決まっているが――一騎は同級生よりも総士達と一緒にいることが多いのだ。だが、さすがに学校の行事だけはそう言うわけにはいかない。
 だから、きっと寂しかったのだろう。
 甲洋達はそう思って、彼の行動を見つめていたのだが……
「へっ?」
「何!」
「嘘、でしょう?」
「マジ?」
 だが、次の瞬間、目の前で繰り広げられた光景は彼らの予想をさらに超えたものだった。
 どう見ても、あれは《キス》というものだろう。
 しかも、恋人か夫婦がするようなマウストゥマウスだ。
「な、んで……皆城君と真壁君が……」
 真矢が呆然と呟いている。それはどちらのどちらに対する行為でショックを受けているのだろうか。と訳のわからないことを甲洋は考えてしまう。
「というより、皆城が教えたのか、あれって……」
 剣司の疑問ももっともなものだ。
 いくら何でも、小学校中学年の子供があんなキスを知っているわけはない。
 だが、高学年の子供が知っていてもおかしいものではある。
 しかし《皆城総士》であれば、知っていてもおかしくはないのではないか。
 いや、絶対に知っている。どころか経験済だ!
 というのが彼らの共通認識でもあった。そして、それもまたかまわないと思う。年齢を感じさせない落ち着きを持っている彼であれば、だ。
「よりによって……真壁君にあんな事を……」
 いまにもわら人形を取り出しそうな雰囲気で翔子が呟く。
「そうよね。一騎君にあんな事……似合わないよね」
 真矢もまたその言葉に頷いている。いや、どうやら咲良も同じ気持ちらしい。
 お日様のような笑顔の少年。
 そんな彼によりによって不埒な行為を教えるなんて……と少女達は憤っている。
「……って言ったって、相手は皆城だしなぁ……あいつの一騎に対する独占欲なんて……よくわかってるだろうが……」
 もっとも、あんな事まで教えているとは思わなかったが……と呟いたのは衛だった。
「……どうせ、この前テレビで流れた映画を見た後、適当なことを言って言いくるめたんだろう」
 剣司が冷静な口調を保とうと虚勢を張りながら、こう分析をする。
 甲洋にしても、それしかないだろう、とは思っていた。思ってはいたが……
「まだ、やめないぞ、あいつら……」
 それ以上に、こちらの方が厄介かもしれない、と思う。
「皆城君! いい加減に真壁君を放して!!」
 もう嫌がっているでしょう!
 翔子のこの叫びが彼らの気持ちを代弁していた。

「あれって、お帰りの挨拶なんだろう? 親しい人にする」
 後日、あの時の事情を問いかけた甲洋に、一騎はけろりっとした口調でこう言い返してきた。
「父さんは嫌がるけど、総士は喜ぶから」
 だからやっているんだ、と彼は胸を張る。真実を知らない彼に説明するべきか否か、本気で悩んでしまった甲洋だった。


ちゃんちゃん