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ニル刹でライアニュ前提
第二期終了後ですが、ニールが生きています。ついでに、アニューも存在中。
リボンズもヴェーダの中で存在中。何故か、刹那大好きに。おかげで、ティエリアが眠れずにいます。
おいおい増えるかもしれませんが、とりあえずはこんなところで。
01
「きゃぁっ!」
かわいらしい悲鳴が周囲に響いた。しかし、その場にいた者達は誰もそれを認められずにいる。
いや、これがフェルトやミレイナの声――妥協してスメラギやマリーあたりか――であれば、直ぐに反応が出来たのかもしれない。
だが、その悲鳴の主は彼女たちではない。
実質、自分たちの中心になっている存在のそれだった。
「……刹那?」
それでも無視をするわけにはいかない。第一、と思いながらその呪縛から真っ先に抜け出せたのは、先代のロックオン・ストラトスことニール・ディランディだった。
「どうした?」
そう問いかけると同時に、破裂音が周囲に響く。叩かれたのはニールと同じ顔をしている存在である。
「いい加減にしろ、ライル・ディランディ……」
片腕で己の胸をしっかりと抱きしめるようにしながら刹那が低い声でこういう。本気で怒っているとわかるのは、その瞳が黄金の輝きを放っているからだ。
「……いや、ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど……」
何か、とんでもないことになった? とへらりと言い返す
双子の片割れにニールはあきれたような視線を向ける。刹那の怒りをさらにかき立ててどうするつもりなのか。
ため息とともにそう呟くのとほぼ同時だった。
「ぐぅぇぇぇっ!」
何とも言い難い呟きと共にライルがその場に崩れるようにうずくまる。
その光景を目の当たりにした男性陣は、悪いのは彼の方だと思いつつも複雑な表情を浮かべてしまう。同じ顔をしているニールにいたっては背筋に氷を詰め込まれたような悪寒を感じていた。
男として、あの痛みは耐えられません。
その光景を見るのもいたたまれません。
それを目の当たりにさせられてしまいました。
「刹那!」
だが、それを行った人間は、そのままきびすを返すと足音も高くかけだしていく。
さて、どちらを優先すべきか。ニールは一瞬悩む。もちろん、ライルを心配しているのではない。本人をなだめるか、それとも原因を確認するかの二択で悩んだのだ。
「……ニール。刹那は私が追いかけるから……」
だから、原因を……とフェルトが口にする。そして、そのまま彼女は刹那の後を追いかけていった。
とりあえず、フェルトならば刹那の怒りを和らげてくれるだろう。だから、とニールはまだ床にうずくまっているライルの傍に膝を着いた。
「お前……刹那をからかうなっていっただろうが」
そして、兄の権利として思い切りその頭を殴りつける。
「……そうは言うけどなぁ、兄さん」
痛みに顔をしかめながらライルが視線を向けてきた。
「まさか、背筋をくすぐっただけで外れると思わなかったんだよ」
ブラのホックが……とそこだけは小声で付け加える。
それを耳にした瞬間、ニールは遠慮なく彼の頭に拳を落とした。
「お前なぁ! なんて事をしてくれたんだよ!」
これでまた元の木阿弥じゃないか。そう彼は続ける。
「……兄さん?」
何のことだ、と言うようにライルが呼びかけてきた。
「ようやく、スポーツブラを卒業してくれたのに……」
これで、戦闘中にホックがはずれると言ってワイヤーブラをつけてくれないんだ……とニールはため息を吐いた。
「せっかく、可愛いのを入手してきたのに……」
そう告げる彼に、今度は周囲からなま暖かい視線が向けられる。それでも、誰も何も言わないのは、ニールが刹那にあれこれと常識をたたき込むのに苦労していたことを覚えていたからだろう。
「……悪い……」
その状況は知らなくても、ニールの表情から何かを感じたのか。ライルは謝罪の言葉を口にした。
「ともかく、お前は当分、刹那に近づくな!」
こう言うと、ニールは立ち上がった。そのまま、彼は刹那を追いかけるようにその場を後にする。
残された者達の間に沈黙が落ちた。
それに真っ先に耐えきれなくなるのは誰か。それはまた別の問題だった。
02
「だから、あんな連中のことは放っておけばいいんだよ」
そう言いながら微笑んでいるのは、リボンズ・アルマークだ。その体が透けているのは、彼が実体ではないからだろう。
「僕なら、君のことをきちんと理解できるよ?」
だから、と彼が続けようとしたときだ。
「そこまでにして貰おうか、リボンズ・アルマーク」
言葉とともに誰かがリボンズをはり倒した。もちろん、それが現実の人間でないことは刹那にもわかっている。ただの映像にしか過ぎない彼を捕まえることは刹那にも不可能なのだ。
それが可能なのは、彼と同じように電子の世界に生きるもの。
その人物を刹那は知っている。
「ティエリア・アーデ」
だが、彼はヴェーダの中にいたのではないか。確かに、自分が呼べばいつでも姿を見せてくれるが、今日は呼んでいない。
では、どうして……と首をかしげる。
その間にも、ティエリアはリボンズをどこから出したのかわからない檻の中に放り込んでいる。
「……リジェネ」
そして、少しだけ嫌そうな声で誰かの名前を呼んだ。
「了解」
そうすれば、ティエリアによく似た存在が姿を現す。だが、刹那は彼とティエリアを間違えることはないだろう。
「……よく、僕がここにいるとわかったね」
リボンズがため息とともにこういった。
「もっとごまかしておけると思ったんだけど」
確かに、ヴェーダと完全に融合した彼等の方が、優先権は上だ。それでも、自分は誰よりも長くヴェーダと共にいた。だから、そう簡単にばれないようにすることも出来るのに、とリボンズは口にする。
「私が教えたからです」
そう言いながら、刹那を守るように姿を見せたのはアニューだ。
「ライルのことを謝ろうと思って追いかけてきたら、リボンズの姿が見せたので、アーデさんに連絡を取ったのです」
そう言われて、刹那は納得する。彼女も脳量子波が使えるのだ。どこにいてもティエリアに呼びかけることは可能だろう。
「じゃ、これは連れていくね」
リジェネがそう言いながら、リボンズごと姿を消す。
「刹那・F・セイエイ」
それと同時に、ティエリアが呼びかけてくる。しかも、その声音は小言を言うときのものだ。
「何だ?」
いったい、どれを怒られるのだろうか。そう思いながら刹那は聞き返す。
「どうして、直ぐに僕を呼ばなかった?」
そうすれば、もっと早くあれを確保できたのに……彼は続ける。
「あいつの言っていることが理解できなかったから」
だから、危険なのかどうかを判断するのに時間がかかったのだ。刹那は素直にそう告げる。
「……言っている言葉の意味が、理解できなかった?」
ティエリアがさらに聞き返してきた。
「あぁ」
何故、リボンズの方がニールよりも俺にふさわしいというのか。それが理解できなかった。あれに比べれば、まだ、ライルの悪戯の意味の方がわかりやすいとも付け加える。
「ライルのは、あれはニールに無視をされた腹いせだろう?」
それともアニューだろうか。そう言いながら刹那は首をかしげた。
「本当に……いくつになっても子供みたいなんだから」
困った人、と続けるアニューの声音が優しい。
「リボンズが見ているのは今の俺だ。そうなれたのは、全部ニールがいてくれたからなのに」
それに促されるように刹那はそう言う。
「……なるほど」
自分たちは刹那がどれだけ語彙が少なく、しかも情緒的に推さないかを知っている。だから、それを補うように言葉を選ぶ。しかし、リボンズはそうではなかった。そのせいで刹那はフリーズしてしまったと言うことか。ティエリアは納得をしたというように頷く。
「だが、そう言うときだからこそ、僕を呼べ。そうすれば直ぐに的確なフォローが出来る」
そして、さらに彼はこういった。
「だが、それではお前の仕事の邪魔をすることになる」
だから、と刹那は言い返そうとする。
「大丈夫だ」
しかし、それよりも先にティエリアが微笑みを浮かべながら口を開く。
「僕の傍にはリジェネもいる。それに、僕自身がフォローできないときにはアニューか誰かに連絡を取ればいいだけのことだ」
端末さえ持っていてくれれば誰だろうと連絡が出来る。そう言われて刹那は頷いて見せた。
「とりあえず、あれは当分、脱走できないようにしておく。だから、安心してくれ」
言葉とともにティエリアが姿を消した。
やはり忙しかったのではないか、と刹那は思う。
「大丈夫ですよ。忙しくなったのはリボンズのせいですから」
きっと、彼で鬱憤を晴らすのだろう。そう言われて、少しだけリボンズがかわいそうに思えたのは、ティエリアの小言のすごさを覚えているからかもしれない。
「それよりも戻りましょう?」
アニューはそう言ってくる。それに刹那は頷いて見せた。
03
談話室に戻ってみれば、何故かライルがぐったりと倒れ込んでいた。
ひょっとして、強く蹴りすぎただろうか。もう少し手加減をしておくべきだったか、と刹那は心の中で呟く。
「気にするなって」
そんな彼女の肩をニールがそっと叩いた。
「あれが女性としては当然の反応だ。だから、ライルの自業自得なんだよ」
それよりも、オニーサンは刹那がちゃんと女性らしい反応を見せてくれて嬉しい……と彼は付け加える。
「……ニール……」
そうなのか、と刹那は視線で問いかけた。
「そうなんです。だから、アニューもみんなも、何も言わないだろう?」
何よりも、ティエリアが顔を出していない。そう彼は続ける。
「……ティエリアは別の意味で忙しいのでは……」
きっと、今頃はリボンズが脱走できないようにあれこれセキュリティを高めているのではないか。おかげで、こちらも小言を言われずにすんだのだが……と刹那は思う。
「そうね。ティエリアにはやらなければならないことがたくさんあるわね」
意味ありげな表情でスメラギが頷いている。
「とりあえず、ライルは当分、刹那の半径一メートル以内に近づくのは禁止ね。顔を合わせるときには誰かを立ち会わせてね」
でなければ、ブリッジ限定か……と彼女は続けた。
「……そこまでしなくても……」
それでは、緊急事態の時に困るのではないか。刹那はそう言う。
「あら。大丈夫よ。どのみち、ニールがあなたから離れないから」
だから、何があっても問題はない……とスメラギが笑った。
「そうでなければ、護衛用のハロでも作ってもらう?」
イアンとミレイなら、よろこんで作ると思うけど? と彼女は続ける。
「……ニールでいい」
自分のために時間や手間をかけられるなら、と思う。もちろん、自分がそう考えることはスメラギにはお見通しなのかもしれないが。
「よかったわね、ニール」
にこやかに彼女はそう言った。
「俺と刹那ですから」
言葉とともに彼は刹那の体を己の方に引き寄せる。人前でそんなことをされることになれていない刹那は、反射的にその腕から逃れようとする。
「……あ、わりぃ」
その事実を思い出したのだろう。彼は苦笑と共に手を放した。
「鬱陶しがられないようにしなさいね」
その光景を見ていたスメラギがそう告げる。
「ラッセ。流石に邪魔だから、ライルを片づけてちょうだい」
さらに彼女はそう言った。
「邪魔……」
自分以外に唯一のマイスターに対していう言葉ではないのではないか。だが、確かにここにいつまでうずくまれていては移動の時に困る。刹那はそう考える。
「了解」
その間にも、ラッセはどこか楽しげにライルの襟首を掴んだ。
「どこに運べばいい?」
そのままアニューへと視線を向けてこう問いかける。
「とりあえず、医務室へ……一応、診察しておかないと……」
使い物にならなくはなっていないと思うけど、と続けるアニューにラッセだけではなくニールもいやそうな表情を作った。彼等のその表情に、もしそうなっていたらどうしようかと刹那は思う。
「他のみんなはそれぞれ仕事に戻って」
そんな刹那の耳に、スメラギの指示の言葉が届いた。
「ほら、刹那」
エクシアのチェックだろう? とライルが声をかけてくる。それに刹那は頷くと移動を始めた。
そんな二人の姿がドアの向こうに消えたところで、スメラギが小さな笑いを漏らす。
「さて、いつ『近づくな』って言われるかしらね」
くすりと笑いながら彼女はこう呟く。
実は、それか賭の対象になっているとは知らない刹那だった。
終