ダブルオーネタ
意味なし小ネタ01
室内にそっと足を踏み入れる。
その瞬間、赤銅色の瞳が真っ直ぐに自分に向けられた。気配を消していたつもりでも、まだまだ甘かった、と言うことか。そう認識した瞬間、口元に微かな笑みが浮かぶ。
「どうかしたのか?」
それに気が付いたのか。刹那が静かに問いかけてくる。
「それはこちらのセリフだ」
君の方こそ、まだ眠っていなかったのか? といいながら、ティエリアは彼に近づいていった。
「……睡眠はとった」
そうすれば、彼はこう言い返してくる。
「戦闘に出るわけではない。だから、十分だ」
さらに重ねられた言葉は言い訳なのだろうか。
「それでも、疲れているのではないか?」
そういいながら、そっと彼の頬に触れる。そこから伝わってくる温もりに安心している自分がいることに、ティエリアは気付いていた。
この四年間、自分は一人だった。もちろん、フェルトやイアン達はいた。だが、彼等はマイスターではない。あの戦いを全て知っているわけではないのだ。
それでも、刹那もアレルヤも生き残っていると思っていた。特に、刹那の影はあちらこちらではっきりと確認できていた。
何よりも、彼もまた《彼》の言葉を覚えている人間だ。
だから、会いたかったのだろうか。
「……ティエリア?」
そんなことを考えていれば、いぶかしげな声が耳に届く。
「すまない!」
その声で、ようやく自分が何をしていたのか認識をする。同時に手をひこうとしたときだ。逆に刹那の手が自分のそれを掴むと己の方に引き寄せた。
とっさのことに、踏ん張ることが出来ない。
ティエリアの体は、ほぼ自分と変わらなくなった刹那のそれによって受け止められる。
「刹那?」
「あんたは、寂しかったのか?」
刹那の言葉に、ティエリアは頬が熱くなるのを感じた。そのまま、反射的に彼の腕の中から逃げ出そうとする。
しかし、それが出来ない。
きっとそれは、背中を叩いてくる彼の手が生み出すリズムが心地よいからだろう。
「別に……」
「……それでも、一人でないと認識するのは悪いことではない。俺は、そう教えられた……」
誰に、とは言わない。それでも、彼が誰のことを指しているのか、ティエリアにはわかった。
「……最後まで、勝手な男だ……」
それでも、彼の存在があったから自分は変わることが出来た。そして、それは刹那も同じ事だろう。
そして、彼の思いは自分たちの中で生きている。
だから、自分は仲間達に再会したかったのだろうか。
彼の影響を誰よりも色濃く受け付いている青年の腕の中で、ティエリアはそんなことを考えていた。