メモメモ
取りあえず、脳内設定のメモです。増えたり減ったり、順番が変わったりする予定。
神を信じている。
それはこの国に生まれた以上、当然のことだ。その存在を感じられるからこそ、自分たちはこの戦いに身を投じていられるのだ。
しかし、どうして神はそんな自分たちを助けてはくださらないのだろうか。
古の時代、神は人々を救うために我が子をこの世に下ろしてくださったのに。
それなのに、どうして自分たちにはそれを与えてくれないのか。
「……我々には、今こそ、神の子が必要なのに……」
ならば、と狂信者の一人が笑う。
「我々の手で、我々のための《神の子》を生み出せばいい」
その存在は、自分たちを勝利に導いてくれるだろう。
そして、再びこの国――いや、自分たちに巨大な利益を与えてくれるのではないか。
「そう……太陽光発電などよりも、もっと素晴らしいものを我々の手に与えてくれるはず……」
そのための資金はまだ手元にある。
だから、自分たちのための《神の子》を生み出すのだ。
それがどれだけ独りよがりで人を人とも思っていない所行なのか、その場にいる者達は誰も気付いていない。
もし、その資金を他のことに回していれば、この国はこれ以上の疲弊をしないですむかもしれない、と言う可能性すら彼等の脳裏にはなかった。
優秀で役に立つ子供達さえいれば、周囲の国を併合し、また力を持つことが出来るのではないか。そして、いつかはあの三大勢力に肩を並べることが出来るかもしれない。
決してくるはずのない未来を彼等は夢見ていた。
その結果、どれだけの命が生まれ、消されていったのか……誰も知らない。
「このガキが?」
シートに転がされた子供。
それを見つめていれば、部下の一人が信じられないというように問いかけてくる。
「間違いねぇ。これが、あのジジィどもの遺産。その生き残りだ」
人革連の連中すら、欲しがっていた存在。しかし、それを自分たちに探らせたのが間違いだったな、とアリー・アル・サーシェスは笑う。そのおかげで重要な手駒が転がり込んできた。
「あっちにはデーターさえ渡しておけば文句は言われねぇだろ」
さらに言葉を重ねる。
「しかし、そんなガキじゃ、まだまだ使い物にならねぇんじゃねぇですか?」
まだ物心も付いていないだろう。そんなガキを育てるのか。言外にそう問いかけられた。
「バァカ。誰がそんな面倒なことをするかよ」
適当に金を渡せばガキの一人や二人、育ててくれる人間はいる。それだけこの国は貧しいのだ。
「そこそこ育ったところで連れ帰ればいいだろう」
自分たちは最後の仕上げをすればいい。
この言葉に部下達は納得したように頷いてみせた。
しかし、アリーは自分のもくろみがつまらない《情》とやらに壊されるとは思ってもいなかった。
子供を預けた女は、アリーが渡す金よりも子供の存在をとったのだ。
「ったく……あれは、俺のだ」
自分が手間暇をかけて手に入れたものだ。だから、必ず取り戻す。
気が付いた時には、世界はどうしようもなく歪んでいた。
戦うことが正義。
神のために命を捨てることだけが正道。
それだけを教えられてきた自分たちに、他にどのような選択肢があったのか。あったとしても、それがわからなかったのではないか。
だが、今ならわかる。
「……俺たちは、ただの駒だったのか……」
それも、使い捨てられるための。
神のためではない。誰かの利益のためだけに戦うことを強いられ、そして死んでいく。そんなことが許されていいのか。
もっとも、そんなことを考えている余裕は、既に失われている。
気が付けば、自分一人だけがこの場に取り残されていた。いや、自分一人だけが生き残っていた、と言った方が正しいのか。
神の名の下に戦うことを強要され、神という存在に否定されて、仲間達は死んだ。彼等はみな、ただ神のために戦ってきたのに、だ。
「……神なんて、いない」
あるのは、人の欲だけだ。
そう呟きながら、ソランは銃を握りしめる。
こんなもので、MSに勝てるわけがない。いや、その装甲に傷を付けることすら難しいだろう。
それでも、これだけが自分の命を守ってくれる、ただ一つのものだ。
銃弾は、まだ残っている。
そして、自分自身も十分に動くことが出来る。夜陰にまぎれてこの場を離れることも不可能ではないのではないか。もっとも、そんな気はさらさらないが。
「でも、仲間達のためにも、逃げ出すわけにはいかない」
逃げ出しても、行く場所なんてあるわけがない。
自分は家族すらも手にかけた《罪人》なのだ。戦場以外で存在を許されるはずもない。
それでも、生きたいと思ってしまうのはいけないことなのか。
答えを見つけられないまま、明けゆく空を見つめていた。
その日、ソランは天から舞い降りてくる強大な《光》を目撃した。
訓練を受けている最中は、何も考えずにすんだ――いや、正確に言えば、余計なことを考えているひまがなかった……と言うべきだろうか。それだけ、覚えなければいけないことがたくさんあったのだ。
あのような世界にいたからか。はっきり言って、自分は何も知らないと一定以上今日だった。知っていたことと言えば、人を殺すための知識だけ。それも、前世紀に使われていたような……と言う注釈が付く。
だから、文字も一般常識も、ここに連れてこられてから初めて目にしたと言っていい状況だった。
辛うじて、自分は人よりも記憶力がよいらしい。一年も経たずにそれらの大半を――あくまでも知識としてかもしれないが――身につけることが出来た。
そのおかげで、早々に次の段階に進むことが出来たのは幸いなのだろうか。もっとも、それはさらに身につけなければならないことが増えたというのと同意語だったが。
「……何で……」
自分の目の前で転がっている男が信じられないというようにこう呟いている。
「教官?」
それに言葉を返す代わりに彼は視線を側で見守っていた相手に向けた。
「あがっていいぞ。どうやら、この中で一番早く名前をもらえるのはお前かもしれないな」
彼はそう言って笑う。
「……失礼する」
それを決めるのは彼でも自分でもない。この組織の全てを知っているデーターベースだ。だから、と名前を失った少年は心の中で呟く。
自分に出来ることは、その日を少しでも早められるよう努力することだけだ。
だから、少しの時間も無駄にしたくない。その思いのまま、彼はその場を後にしようとする。
「お前は、これから医務室に行って検査だ。これは上の命令だからな。拒否権はない」
そんな彼に教官がこう告げた。それは何のためなのか、と少年は視線だけで問いかける。
「最近、無茶をしすぎているからな、お前は。努力は必要だが、体をこわしては意味がない。ついでに休息もとってこい」
自分たちは、優秀な人材に育て上げることが役目で、捨て駒を作るつもりはないのだ。その言葉に、少年だけではなく他の者達も驚いたように目を丸くした。
それも、彼なりの優しさなのだろうか。厳しいばかりの存在では、教官という役目を与えられないのだろう。
「……了解した……」
少年はこの言葉とともに歩き出す。
「お前らは、もう一度だ!」
その背後で、教官の声が響く。再び、その場は喧噪に包まれた。
少年が《刹那・F・セイエイ》の名前を与えられたのは、それからすぐのことだった。
だからといって、彼がガンダム・マイスターに得らればれたわけではない。
その資格を与えられたと言うだけだ。
「……今は、それでいい」
必ず、と刹那は小さな声で呟いていた。
今でも夢を見る。
最初に自分を抱きしめてくれていたのは、記憶の中の《母》とは違う女性ではなかったか。
おぼろげにしか思い出せない。
「どこか、あの王女に似ていたような……」
そう、刹那は呟いて、すぐにそれを否定する。
「俺に、過去はない」
この名前を手に入れる代わりに、自分は全てを捨てたのだ。いや、捨てたと思っていた、と言った方が正しいのか。
今でも、自分の中ではあの日のことが澱となって存在している。夜中に、あの時の感触を思い出して飛び起きることがあることも否定できな事実だ。
「……アリー……」
そして、あの男の存在が否応なしに自分に過去を突きつけてくる。
「あんたにとって、神とは何だ?」
自分たちを導くために口にしたその存在。
それすらもただの偽りだったのだろうか。そんなことを考えながら、何気なく視線を己の手へと落とす。そこに一瞬だけ、赫い色を見たような気がしたのは錯覚か。
「……俺は……」
今更、あの日々をなかったことに出来るはずもない。
あれもまた、自分自身の選択の結果なのだ――それが操られていたせいだとしても――だから、自分はいずれ、その罪を償わなければいけない。それもわかっている。
「ガンダム、になれるのか」
あの日、自分を救ってくれたあの存在のように、誰かにとっての救いになれるのか。
いや、そのような存在にならなくてもいい。
この世界から戦いをなくすことが出来るのであれば。
戦いがあるからこそ、自分のような愚かな存在が生まれるのだ。だから、と刹那は唇を引き締める。
「俺は、ガンダムに――ガンダム・マイスターになる」
どうしても、一瞬、反応が遅れてしまう。
それは、目の前の機体が自分の中の恐怖とつながっているから、だろうか。
コンマ何秒のことかもしれないが、戦場ではそれが命取りになる。その事実を刹那はよく知っていた。
今はまだ、それは誰にも気付かれていない。そう考えるのは、自分の希望なのか。だが、いずれは誰かにばれるだろう。
「……どうすれば……」
そうなれば、自分はガンダム・マイスターになれはしない。
「どうすれば、この感情を乗り越えられる?」
そもそも、自分は《名前》と共に過去すら捨ててきたはずなのに、どうして、今、そのようなものに悩まされなければいけないのか。
「そんなもの、いらないのに」
感情があるから、こんな風に感じてしまうに決まっている。それがなければ、自分はこんなにも苦しまなくてすんだのではないか。
そんなことも考えてしまう。
「でも、それじゃいけないと言われた……」
戦うための道具はいらない。自分自身の意志で世界を変えていかなければいけない。
それがどれだけ矛盾をはらんだ行動なだとしても、だ。
武力による戦争根絶。
不可能に近いことを行うためには、相応の意志と覚悟がいる。だからこそ、感情を殺してはいけない。
そう言われているのだ。
「だから、きっと方法はあるんだ……」
自分が知らないだけで。
ひょっとしたら、それを知ることが自分に与えられた課題なのではないか。それを乗り越えられなければ、ガンダムには手が届かない。
しかし、どうやってその方法を知ればいいのだろうか。
「ライブラリーに行けば、わかるのか?」
あそこには現在手に入る知識のほとんどが収められている。いや、それ以上のものもあるかもしれない――もっとも、今の刹那の権限で見られるものはほんの一部だけかもしれないが――のだ。だから、きっと、知りたいことも見つかるかもしれない。
そうかんがえると、刹那は腰を上げる。
教官か誰かに問いかければ、もっと早くその方法を手にすることが出来たかもしれない。だが、刹那はその方法に気付くこともなかった。